本研究は、大きく以下の2点となる。一つは、これまでアカデミックな俎上にはのぼることのなかったミュラーの人物像を社会事業史のコンテキストで実証的に解明することである。この着眼点そのものにも学術的独自性がある。その際、彼が強く影響を受けたドイツの敬虔主義思想をフランケ(August Hermann Francke)の思想と比較検討すること、および英国のブラザレン運動のなかで実証的に解明することである。これらはいまだに先行研究では明らかにされていない研究である。そして、もう一点は、そのミュラーが日本に及ぼした影響についてである。山室軍平のミュラーの受容、そして石井十次のミュラー理解とそのプロセスを詳細に明らかにすることによって、ミュラー思想がいかに日本で受容されていったのかを解明することである。 本年度の成果は、「ソーシャルワークと歴史研究方法―援助される側の「物語り」の成立の可能性」社会事業史学会編『戦後社会福祉の歴史研究と方法ー継承・展開・創造』(社会事業史学会創立50周年記念論文集)第一巻と、『ジョージ・ミュラーとキリスト教社会福祉の源泉 ―「天助」の思想と日本への影響―』教文館 これらのことで、これまで、社会福祉学の研究史上において、未解明で、等閑視されてきたミュラーの実像の史実の発見であるばかりか、新しい社会事業史の解明につながり、研究結果においても学術的独自性が期待できる。またキリスト教社会福祉学においても、これまで、どちらかと言えば社会派の関連が福祉の直接的影響の中心として議論されてきたのに対して、ほとんど表舞台にあらわれることのなかった福音派や敬虔主義という内的信仰や神秘主思想が、逆説的に社会福祉の形成にもっとも強い影響の一端を担った可能性への探究は独創的かつ発展的であり、学術的創造性が期待できる。
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