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2020 年度 実績報告書

末期腎不全における血管と腸内環境のリン連関メカニズムの解明と新規栄養療法への応用

研究課題

研究課題/領域番号 19H01611
研究機関兵庫県立大学

研究代表者

坂上 元祥  兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (20283913)

研究分担者 伊藤 美紀子  兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (50314852)
中出 麻紀子  兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (80508185)
田中 更沙  兵庫県立大学, 環境人間学部, 助教 (90733387)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード高リン血症 / 末期腎不全 / 血管内皮障害 / 栄養療法
研究実績の概要

末期腎不全において血液透析を受ける患者の生命予後は悪く、透析患者の死因の約40%は動脈硬化病変を伴う心血管疾患である。高リン血症は血管内皮機能障害を惹起し、さらにリンはカルシウムと結合して血管石灰化を起こし、心血管疾患の発症に関与する。さらに近年、慢性的な高リン血症だけでなく、高リン食摂取後の一過性高リン血症(リンスパイク)の繰り返しが血管内皮機能を低下させると報告されている。従って、透析患者で血管の機能を維持するには食物から摂取するリンを制限することが大変重要である。また、末期腎不全患者では尿毒素物質が増加し、血管合併症などの臓器障害をさらに生じやすくさせる。末期腎不全での腸内環境も影響を受けるので、腸内細菌とのかかわりを明らかにする研究も重要な課題である。
本研究では、高リン血症やリンスパイクが末期腎不全患者の血管機能と血管石灰化へ及ぼす影響を検討するとともに、腸内環境との関わりや尿毒症物質との関係も明らかにする。さらに水溶性食物繊維を用いた予防方法を検討する。そのために動物モデルを用いてメカニズムを解明し、動物実験から得たエビデンスに基づいて、実際に患者で血管機能障害を予防し、生活の質の維持・増進のための栄養療法の開発をめざす。
昨年度の実績として、軽度腎不全モデル動物を用いたリンスパイクによる血管障害機構を解析した。その結果より、血管石灰化を予防するためには慢性腎臓病早期から慢性的な高リン血症だけでなく、リンスパイクを防ぐ食事が重要であることが示唆された。さらに水溶性食物繊維を用いたリンスパイク由来血管障害の予防方法を検討した。その結果、高リン食摂取時の食物繊維摂取は、尿毒症毒素を産生する腸内細菌の減少を介して、リンスパイクによる血管石灰化の進行を抑制する可能性を示した。しかしながら、ヒトに応用するには水溶性食物繊維量について更なる検討が必要であった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は主に3つの研究を行った。研究1としてリンスパイクによる血管障害の水溶性食物繊維投与による予防方法の検討を継続した。昨年度、軽度腎不全モデル動物を用いて、水溶性食物繊維の長期的な投与がリンスパイクによる血管障害を予防できるか検討し、高リン食摂取時の食物繊維摂取は尿毒症毒素を産生する腸内細菌の減少を介して、リンスパイクによる血管石灰化の進行を抑制する可能性を示した。しかし、投与した食物繊維量はヒトが日常的に摂取できる量としては多量である。そこで、食物繊維量を減らして同様の検討を行った。その結果、1/3の食物繊維量でも石灰化予防効果があることが示された。
研究2として軽度腎不全モデル動物を用いてリンスパイクの短期的な効果を検討した。水溶性食物繊維を単回投与し、水+リン水溶液を投与した群、水溶性食物繊維+リンを投与した群に分け、投与前、投与後0から6時間で血中リン濃度を測定した。その結果、両群間に有意な差はみられなかった。このことから、水溶性食物繊維の長期摂取におけるリンスパイクによる血管石灰化の抑制は、短期的な影響の繰り返しではなく、腸内細菌などを介した長期的な影響であることを明らかにした。
さらに研究3として透析患者への水溶性食物繊維による効果を明らかにするために、透析患者13名を対象に、1日3回、2週間の水溶性食物繊維摂取を依頼した。2週間で80%以上摂取した対象者8名を解析した。調査項目は基本属性、身体計測、血液検査、食物摂取頻度調査、血管機能検査である。改善が見られた対象者もあったが、全体として血中リン濃度や尿素窒素、血管内皮機能に明らかな効果はみられなかった。対象者が少数であったこと、遵守率や測定の技術的な点、個人差が大きい事が課題として考えられた。
なお、例年実施している血液透析患者の意識調査や食物摂取量の調査はCovid-19のため十分には行えなかった。

今後の研究の推進方策

水溶性食物繊維を用いたリンスパイク由来血管障害の予防方法を、透析患者に応用するためには更なる動物実験を行い、エビデンスの蓄積が必要である。これまでのリンスパイクは、極端な低リン食から高リン食への変動を反復させたものである。ヒトの食事において、食品中のリンはたんぱく質に多く、また食品添加物として多くの加工食品に使用されていることから、日常の食事摂取状況から考えると極端である。そこで、よりヒトの摂取状況に近い通常リン濃度の食餌から高リン食に変動させることでリンスパイクが起きるかを検討する。次に、軽度腎不全モデル動物を用いて、通常リン食から高リン食の長期の反復が血中リン濃度や血管や腎臓の石灰化、尿毒素物質や腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを検討する。また、その予防に水溶性食物繊維が効果的であるかも検証する。尿毒素物質はこれまでインドキシル硫酸のみの測定としていたが、測定する尿毒素物質の種類を増やし、水溶性食物繊維の効果についてメカニズムの詳細を検討して論文にまとめる。
昨年度実施した透析患者対象の水溶性食物繊維の摂取試験において、採取した便中の腸内細菌叢の解析、血中の尿毒素物質の解析をすすめ、改善効果を検証し、論文にまとめる。また、これらの解析から、効果改善における個人差の背景を明らかにし、今後の対象者を増やした介入試験につなげるエビデンスを構築する。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Elevation of the serotonin-derived quinone, tryptamine-4,5-dione, in the intestine of ICR mice with dextran sulfate-induced colitis2021

    • 著者名/発表者名
      Suga Naoko、Murakami Akira、Arimitsu Hideyuki、Shiogama Kazuya、Tanaka Sarasa、Ito Mikiko、Kato Yoji
    • 雑誌名

      Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition

      巻: 69 ページ: 61~-67

    • DOI

      10.3164/jcbn.20-161

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] SLC37A2, a phosphorus-related molecule, increases in smooth muscle cells in the calcified aorta2021

    • 著者名/発表者名
      Tani Mariko、Tanaka Sarasa、Oeda Chihiro、Azumi Yuichi、Kawamura Hiromi、Sakaue Motoyoshi、Ito Mikiko
    • 雑誌名

      Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition

      巻: 68 ページ: 23~31

    • DOI

      10.3164/jcbn.19-114

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 女子大学生における主食・主菜・副菜の揃った食事と生活習慣,知識・健康意識,健康状態との関連2021

    • 著者名/発表者名
      中出 麻紀子、岩城 なつ美、中村 優花、黒谷 佳代
    • 雑誌名

      日本健康教育学会誌

      巻: 29 ページ: 51~60

    • DOI

      10.11260/kenkokyoiku.29.51

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] High-fat diets provoke phosphorus absorption from the small intestine in rats2020

    • 著者名/発表者名
      Kawamoto Keisuke、Sakuma Masae、Tanaka Sarasa、Masuda Masashi、Nakao-Muraoka Mari、Niida Yuki、Nakamatsu Yurino、Ito Mikiko、Taketani Yutaka、Arai Hidekazu
    • 雑誌名

      Nutrition

      巻: 72 ページ: 110694~110694

    • DOI

      10.1016/j.nut.2019.110694

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Effects of dietary fiber on vascular calcification by repetitive diet-induced fluctuations in plasma phosphorus in early-stage chronic kidney disease rats2020

    • 著者名/発表者名
      Tani Mariko、Tanaka Sarasa、Takamiya Kana、Kato Yoji、Harata Gaku、He Fang、Sakaue Motoyoshi、Ito Mikiko
    • 雑誌名

      Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition

      巻: 67 ページ: 283~289

    • DOI

      10.3164/jcbn.20-46

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 朝食時における家族との共食状況と成人の朝食欠食との関連2020

    • 著者名/発表者名
      中出 麻紀子、木林 悦子、諸岡 歩
    • 雑誌名

      日本健康教育学会誌

      巻: 28 ページ: 198~206

    • DOI

      10.11260/kenkokyoiku.28.198

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Dietary Habits and Health Awareness in Regular Eaters of Well-balanced Breakfasts (Consisting of <i>Shushoku</i>, <i>Shusai</i>, and <i>Fukusai</i>)2020

    • 著者名/発表者名
      Kibayashi Etsuko、Nakade Makiko、Morooka Ayumi
    • 雑誌名

      The Japanese Journal of Nutrition and Dietetics

      巻: 78 ページ: 243~253

    • DOI

      10.5264/eiyogakuzashi.78.243

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Dietary intake of patients with type 2 diabetes was adversely affected by the psychological burden related to diabetes and its treatment.2020

    • 著者名/発表者名
      Muneishi M, Ozasa R, Fujimoto C, Kihara N, Sakaue M
    • 学会等名
      ESPEN 2020 (欧州臨床栄養・代謝学会)Virtual Congress
    • 国際学会
  • [学会発表] Dietary awareness, eating attitudes, and phosphorus intake in hemodialysis patients with protein-energy wasting (PEW).2020

    • 著者名/発表者名
      Fujimoto C, Kaji Y, Muneishi M, Kamimura K, Sakaue M
    • 学会等名
      ESPEN 2020 (欧州臨床栄養・代謝学会)Virtual Congress
    • 国際学会
  • [学会発表] Association of nutrient intakes with physical activity in patients on chronic hemodialysis.2020

    • 著者名/発表者名
      Inuki M, Fujimoto C, Muneishi M, Sakaue M
    • 学会等名
      ESPEN 2020 (欧州臨床栄養・代謝学会)Virtual Congress
    • 国際学会
  • [学会発表] 2型糖尿病外来通院患者における糖尿病治療に関する心理的負担度と食物摂取量の関連2020

    • 著者名/発表者名
      酒井亜月1、小笹里歩、田中久美、井野隆弘、坂上元祥
    • 学会等名
      第57回日本糖尿病学会近畿地方会(Web ポスター発表)
  • [学会発表] 生活習慣病を有する高齢女性患者のフレイルと食習慣・運動習慣の関係2020

    • 著者名/発表者名
      竹林希歩、森倉美月、田中久美、井野隆弘、坂上元祥
    • 学会等名
      第31回日本老年医学会近畿地方会
  • [学会発表] 軽度リフィーディングの肝臓における網羅的代謝変動解析2020

    • 著者名/発表者名
      田中更沙、緒方茉衣、博多涼、谷真理子、坂上元祥、伊藤美紀子
    • 学会等名
      第74回日本栄養・食糧学会大会(誌上開催)
  • [学会発表] リフィーディングシンドロームモデル動物における栄養投与法が代謝変動に及ぼす影響2020

    • 著者名/発表者名
      田中更沙、博多涼、多田恭歌、藤川晴奈、坂上元祥、伊藤美紀子
    • 学会等名
      第59回 日本栄養・食糧学会 近畿支部大会(Web 開催)
  • [学会発表] Association of a healthy dietary habit with dietary practices for lifestyle disease prevention and with health awareness.2020

    • 著者名/発表者名
      Kibayashi E, Nakade M, Morooka A
    • 学会等名
      Society for nutrition education and behavior annual conference 2020(Web 開催)
    • 国際学会
  • [学会発表] 20、30歳代成人における主食・主菜・副菜の揃った食事と関連する食習慣2020

    • 著者名/発表者名
      中出麻紀子,木林悦子,諸岡歩
    • 学会等名
      第67回日本栄養改善学会学術総会(誌上発表)
  • [学会発表] 大学生における昼食時の料理選択と食事に対する意識との関連2020

    • 著者名/発表者名
      中出麻紀子
    • 学会等名
      第79回日本公衆衛生学会総会(Web 発表)
  • [図書] 生活習慣病:糖尿病とメタボリックシンドローム、図説作業療法技術ガイド(第4版)2021

    • 著者名/発表者名
      坂上元祥、谷口 洋
    • 総ページ数
      1384(pp.584-596)
    • 出版者
      文光堂
    • ISBN
      978-4830645891

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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