研究課題/領域番号 |
19H01612
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
大澤 清二 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 特別研究員 (50114046)
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研究分担者 |
中川 正宣 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 特別研究員 (40155685)
下田 敦子 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 准教授 (60322434)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 身体技術の発達過程 / 人類史 / グロスモータースキル / ファインモータースキル / リビングスキル |
研究実績の概要 |
本研究は身体能力・発育発達を人類史的視野から探求している。Goldschmidtの「Man's Way」モデルを仮説とし、次のA~Eの人間社会の発展段階に対応させて現代に生きる東南アジア諸民族 Aサロン(モーケン)、Bムラブリ、Cシェルパ、ボーティア、カヤン、カヨー、ナーガ、チン、カチン、モン、シャン、カチン、D/Eビルマ、タイを研究対象としている。人類はその生存時間の99%以上を狩猟採集生活によっており、かつて生活は全て身体の使用に依存していた。やがて定住生活、部族社会へと段階が移行する。令和元年度はこれまでの研究成果を総括して、A~Eの各発展段階における人の身体の使用状況、労働時間、道具の使用、自由時間、Gross Motor、Fine Motorの各 Skills、視聴覚能力、衣服製作能力、調理能力、身体装飾性、肥満度について定性的に評価し、その人類史的変遷を視覚化して大学博物館において特別展を半年間行い、図録の出版を行った。 また、身体発育については、前記2民族の発育データの綿密な再検討を行った。その結果、ムラブリ人のmixed-longitudinal dataによって、思春期の急進期が存在しないことを発見し、関係の雑誌で紹介して、従来の学説の訂正を求めた。これにより19世紀以来世界的に認知されてきた思春期発育の定説を修正した。ついで、人類史上のさらに古い段階の狩猟採集民に対応させているサロン人のデータを解析したところ、ムラブリ人において認められたのと同じ結果がえられた。これによって、狩猟採集時代には人の発育は現代人よりはるかに緩やかであり、狩猟採集民には現代人のような激しい発育発達をする思春期は存在しなかった、と解釈される。また、他の身体の諸機能、形質においても、狩猟採集民の発育発達過程は現代人と様相を異にする点が徐々に明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は非常に広範囲の地域と分野に及んでいるが、幸いタイ、ミャンマー、ネパールにおいて研究を支援していただいている大学などの協力によって、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
なぜ狩猟採集民には現代人の様な激しい思春期発育発達がないのか、という命題を現地データを吟味しつつ探求してゆく。併せて狩猟採集民ムラブリとサロンについては、特に現在までの知見に加えて、綿密な補充調査(衣食住 の現状、識字、計算、社会環境についての認識、遊び、身体発育との関係について)を現地大学、関係省庁の協力のもとに実施する。収集したデータを解析して狩猟採集民の身体技術と環境との相互作用を解析できるようにしたい。 令和2年度は上記のカヤン、カヨー、ナーガ、チン、ビルマ、シャン、モン、カチンに属する支族をさらに追加して計24民族についてのGross motor skill、Fine motor skill、Living skillに関する調査、生育環境に関する調査、加えて発育調査を現地で実施する予定である。さらにヒマラヤ地域のシェルパ、ボーティアなどについては 身体技術の発達に関する項目と生育環境に関する項目についてのデータ収集を行う予定である。 解析は上記の民族、項目、性別に身体技術の発達に関しての民族間の比較を行いGoldschmidtの人類史発展段階モデルに沿って文明化によって変容する身体技術に関する記述と考察を引き続き行う。令和2年度はこれらのデータを整理して研究全体の見通しを整え、次年度(最終年度)のまとめに備える。 上記の現地調査は現在も終息する気配のないパンデミックの動向を見ながら進めてゆく予定である。
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