研究実績の概要 |
アルカリホスファターゼ(ALP)はアルカリ性に至適pHを有し, リン酸エステルを無機リン酸とアルコールに加水分解する反応を触媒する亜鉛含有酵素である。ALPはリン酸エステルの加水分解を通じて, 生体内の様々な生理作用に関与している。骨組織のALPは「骨形成マーカー」として知られ,石灰化に深く関わる酵素であるが, 小腸や肝臓,腎臓などのALPの生理作用については未だ不明な点が多く残されている。 ヒトのALPは,骨・肝臓・腎臓などに存在する「組織非特異型ALP(tissue-nonspecific ALP: TNSALP)」, 小腸に存在する「小腸型ALP(intestinal ALP: IAP)」,「胎盤型ALP」, 「生殖細胞型ALP」の少なくとも4型に分類されている。小腸のALPは「腸の分化マーカー」として知られており,近年,細菌性内毒素であるリポ多糖 (LPS)をIAPが脱リン酸化することにより腸管での炎症の制御に関わっていることや, IAPが腸管での長鎖脂肪酸の輸送の調節に関与していることなどが示唆されている。しかしながら,IAPをはじめ,他の肝臓や腎臓,筋肉などの組織中のALPの生理作用については未だ不明な点が多く残されており,栄養・食事因子や加齢・老化とALP遺伝子発現調節との関連を明らかにすることは,生活習慣病予防の観点から重要であると考えられる。 そこで, 本研究では骨組織だけでなく肝臓や腎臓,小腸,筋肉や脂肪組織など他の組織におけるALPや関連遺伝子への影響も含めて検討し,ALPのマルチファンクショナルな生理作用メカニズムを明らかにすることを目的とし,【培養細胞を用いた実験】,【動物を用いた実験】,【ヒトを対象とした調査研究】を進め,実施した研究の成果について一部論文にまとめて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず, 【培養細胞を用いた実験】においては, ALP遺伝子の発現ベクターによる遺伝子導入を行うために, TNSALPの発現ベクターは研究代表者がすでに作製したものを用い, さらに作製したIAPの2種類の発現ベクターを用いて細胞への遺伝子導入実験を行いALP活性への影響について解析した。IAPに対するペプチド抗体を作製し、さらにタンパク質レベルでの解析を進めているところである。 【動物を用いた実験】においては,高脂肪食摂取時における栄養・食餌因子や加齢によるALP活性への影響について比較し, 実験動物用X-ray CTスキャン装置を用いて,骨密度ならびに骨強度測定, 体組成(体内脂肪量や筋肉量)について解析した。本年度は,実験動物として,「雄ラット」や「雌ラット」を用い, ビタミンD制限や高脂肪食がALP活性や骨代謝などへ及ぼす影響を比較し,その研究の成果を論文にまとめた[日本家政学会誌 (Journal of Home Economics of Japan) 74:76-83, 2023; Nutrition Research, 112:20-29, 2023]。 【ヒトを対象とした調査研究】において, 中学生を対象に食習慣・生活習慣などについて解析し,その研究の成果について論文にまとめて発表した(日本女子大学大学院紀要家政学研究科・人間生活学研究科 第29号: 285-295, 2023.)
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画の通り, 【培養細胞を用いた実験】において,ALP遺伝子の発現ベクターによる遺伝子導入を行い, ALP遺伝子発現と細胞の分化・増殖や栄養・食事因子との関連について検討を進める。ALP遺伝子の発現ベクターを用いて,培養細胞でトランスフェクションを行い, ALP活性やALP遺伝子のmRNA発現量を比較し, さらに作成したALPのペプチド抗体を用いて, ALPタンパク質の生合成や免疫学的性質などについて検討を行う。また,ALP遺伝子の発現による他の遺伝子発現への影響についても,RNA-seqを用いた解析を行い,細胞の分化・増殖との関連について詳細な検討を行う。 【動物を用いた実験】において,高脂肪食摂取時における栄養・食餌因子や加齢によるALP活性への影響について比較し, 実験動物用X-ray CTスキャン装置を用いて,骨密度ならびに骨強度測定, 体組成(体内脂肪量や筋肉量)を解析する。実験動物として,「雄ラット」を用い,対照群としてAIN -93Mを与える基準食群,ビタミンやミネラルなどの栄養素制限食群,基準食のコーンスターチの一部をラードに置き換えた高脂肪食群 ,高脂肪食にミネラル制限食群の計4群とする。実験食投与開始後4週間後に各群8~10匹について,加齢によるALP活性やリン代謝などへの影響について比較する。 【ヒトを対象とした調査研究】において,成長期や若年成人を対象として,食事調査,食習慣・生活習慣や骨量との関連を解析して,骨粗鬆症や生活習慣病の予防を視野に入れた栄養・食生活の改善,栄養管理に役立てることを目指す。
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