研究課題/領域番号 |
19H01619
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北村 嘉恵 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (20322779)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 先住民族の近代史 / ライフヒストリー/生命史 / 家族史 / 歴史記憶 / 婚姻・内縁 / 修学経験 / 植民地戦争 / 脱植民地化/脱帝国化 |
研究実績の概要 |
本年度は、感染症対策による渡航規制の緩和を見込んで国外での実地調査について調査先と協議を重ねつつ、国内での資料収集を行い、あわせて新たに刊行された復刻資料やこれまでに蓄積した史料などを活用することで、台湾先住民個々人の歴史経験を主軸とした植民地主義の歴史の再構築に向けた作業を進めた。 まず、20世紀への移行期に北部台湾に生まれ育った一人のタイヤル女性に焦点を据えて、そのライフヒストリーの再構成に取り組んだ。残された史料の断片性、その中の過剰と不在の不均衡さを慎重に吟味しながら、出郷、婚姻、修学、就職などのライフイベントに関わる基礎的事実をつぶさに掘り起こすことを通じて、私的に取り結ばれた関係性と公的に創り出された境界や秩序の交錯、同時代の先住民女性たちの経験との分岐点などを浮かび上がらせる叙述へとつなげることができた。 また、台湾先住民の近現代史の叙述のあり方について、この四半世紀に台湾社会で大きな展開をみた歴史記憶再構築の諸実践を整理し、新たな視点や方法の特徴および継続的な課題を明らかにした。その際、外来者との遭遇・交渉の歴史経験をいかに表象するかが先住民史にとって切実な課題となることから、近年の歴史学界で重要性の指摘される「植民地戦争」という概念がどのような有効性と限界をもつかを考察した。 以上の成果はそれぞれ論文としてとりまとめて学術雑誌(紙媒体・電子媒体)のかたちで公表することができた。また、前年に実施したオンライン・ワークショップの記録を整理して冊子および電子媒体の形式で刊行し、より広範な発信につとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では4年目にあたる2022年度には国際ワークショップの開催を予定していたが、その土台となるカナダ・アメリカ国境地帯での実地調査が先送りとなっていることから計画の組み直しを行い、本研究課題に沿ったテーマのもと国外の研究者とセッションを企画して最終年度に国際学会で報告を行うこととし、これに向けて準備を進めている。他方、大幅に遅延していた台湾での実地調査がようやく実現し、より優先度の高い個人文書の調査を進められたほか、新たにつながった人脈に支えられて当初の計画以上に聞き取りが進展した面があり、最終年度の補足調査によってさらなる深まりが期待できる状況にある。また、ハイフレックス形式の研究会参加や紙媒体・電子媒体での論文公刊など、研究成果の公開・発信を着実に重ねている。以上を総合すれば、研究課題の達成に向けておおむね順調に進展していると評価しうる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、国内外の学会でセッション報告やワークショップを実施するとともに、台湾および国内で補足的な聞き取り調査・資料調査を実施し、単著公刊に向けた準備を進める見込みである。
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