最終年度にあたる本年度には、新型コロナ感染症の影響で一部遅延していた調査について補足的な調査を実施するとともに、国際学会等での報告・議論を通じて考察を深め、成果とりまとめの準備を進めた。 ・防衛省防衛研究所(東京)や中央研究院台湾研究所(台北)などで補足的な文献調査を行い、未解明な点の多い台湾駐屯軍の実態について数量的・地勢的な観点から基礎的事実の確定を進めることができた。 ・拡張する帝国のフロンティア(前線、周縁)で生起した暴力の様態と構造を討究する場をイスラエル、米国、台湾の歴史研究者と企画し、国際学会でセッション報告を行った。日本による台湾の軍事的・政治的制圧の過程に焦点を据えて、セクシュアリティや「人種」をめぐる管理・規制と逸脱の様態を検証し、日本帝国内外における共時的・通時的な問題構造を分析する視角について示唆を得た。 ・これまで重点的に調査を進めてきた人物について、新たに連絡のとれた親族を訪問し聞き取りを行うことができた。一方、関係者の協力を得てコンタクトを試みてきたが直接連絡を取るには至っていない親族等も複数ある。こうした歴史記憶再構築のプロセスと叙述しうる歴史像との連関について、改めて理論的・方法論的な吟味を重ねた。 ・これまでの考察をふまえて、台湾先住民族の近代経験と記憶継承の様態、東アジアにおける植民地主義の生成・再編のプロセスを立体的に開示しうるような構想を練り、「民衆史」の問い直しをすすめるクローズドの研究会で報告を行った。討議を通じて課題を整理し、単著のとりまとめに取りかかる見通しを得た。
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