研究実績の概要 |
表情認知は情動認知と関連し,他者理解において重要な役割を担う機能を有する。自閉症者では, 顔・表情処理が定型発達者と質的に異なり,顔や表情をモノと違う特別な存在として認識することが難しいと言われている。しかし,それらの認知メカニズムは複雑であり,健常者と自閉症者とが同一スペクトラム上において連続性を持つ可能性が示唆されている。よって本研究では,子どもの表情識別能力と自閉傾向との関連性について調べることを目的とした。 研究内容について口頭と書面にて説明をおこない,保護者からの同意と賛意を得られた小学校 5・6年生 34名(男児19名, 女児15名,平均年齢=11.74歳)を対象とした。タブレットパソコンに表示される女性の4種の基本表情「喜び(うれしい)」,「悲しみ(かなしい)」,「驚き(びっくり)」,「怒り(怒っている)」を評定する表情識別課題(吉田ら,2011, 心理相談センター年報 )を使用し,表情に対する個人の感受性を量的に数値化してそれぞれの基本表情の識別を「どの程度できるか」を量的に測定した。刺激強度は100% (簡単), 70% (少し簡単), 30%(難しい)で練習課題を含めて合計80トライアル有した。また,自閉傾向の指標として,児童用AQを実施した。 その結果,喜び・悲しみ・怒り・驚きの中で,驚きの表情がいちばん識別しやすいことがわかった,さらに,強度35%の悲しみの表情とAQ総合得点には負の相関が認められ,悲しみの表情識別が困難な子どもは,日常のコミュニケーションの困難さが生じている可能性があることがわかった。これらの関連により,特定の表情(悲しみ)に対する識別の困難さが生じている可能性が示唆された。本研究の結果をさらに発展させるために,顔認知固有のコミュニケーションの難しさの理解に着目した研究を継続し関係最困難を抱えるヒトの支援に繋げたい。
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