研究課題/領域番号 |
19H01706
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
上野 佳奈子 明治大学, 理工学部, 専任教授 (10313107)
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研究分担者 |
高橋 秀俊 高知大学, 医学部門(医学部), 特任教授 (40423222)
川井 敬二 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (90284744)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 特別新教育 / 発達障害 / 音環境 / 教室環境整備 / 感覚特性 |
研究実績の概要 |
学校の教室では、児童生徒の音声によって騒がしい音環境になる場面が日常的にみられる。自閉スペクトラム症などの発達障害によって、聴覚過敏など非定型的な聴覚処理特性をもつ児童生徒にとっては、複数の音声から必要な情報を選択的に聴取することに問題が生じる場合や、騒がしさが負荷となって教室内に留まることに困難が生じる場合がある。本研究は、このような児童生徒の感覚特性を踏まえた音環境整備のガイドを提供することを目的としている。 2019年度には、発達障害児の学習環境の現状と環境整備に対する要請の把握、音環境の改善手法や音響面の工夫を導入した補助具の検討について、東京都内2施設、熊本県内2施設の協力を得て研究を実施した。 東京では、校庭に新校舎建設中で仮設校舎を使用する小学校において、天井に吸音材を取り付けて騒音抑制効果を確認した他、吸音材を用いたリラックスボックス(頭部を入れて耳を休めるための補助具)を設置した。また、LDサポート・療育施設において、吸音材を使用した補助具として、小空間及び吸音テント、吸音衝立などを設置した。その結果、これらの補助具について、環境刺激から逃れる退避場所としての機能や、聴覚の情報処理を助け、集中を高めたり音声聴取を補助する効果が確認された。 熊本では、特別支援学校と児童発達支援センターで、音環境改善を目的として天井に吸音材料を取り付けて効果を調べた。会話の明瞭性についてはそれほど効果は見られなかったが、幼児の落ち着きなど、ストレス軽減に関する効果が示唆された。さらに、同施設で感覚プロファイル調査を実施した結果、音の聞き分けの困難さと音に対する敏感さに関して、高反応と評価された児童の割合が高いことが示された。 これらの取組みに加え、発達障害における感覚の問題に関して、支援者や一般市民の理解を促進する取り組みとして、和文総説を執筆し国内外の学会でも発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる2019年度には、東京都内の小学校、LDサポート・療育施設、熊本県内の特別支援学校、児童発達支援センターにおける実践により、教室の天井に吸音材を取り付ける効果、吸音材を用いたリラックススペースや衝立等補助具の効果を検証することができ、発達障害をもつ児童・生徒のための教室の音環境整備に関わる多くの知見を得た。研究計画に照らして、概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に実施した研究を踏まえ、今後は以下の研究を進める。 ・特別支援教育のための学習空間に求められる音環境性能を把握するため、特別支援学校・学級における授業中の音環境(室内騒音レベルの終日測定、遮音性能、残響時間)の調査及び観察調査を行い、実態を把握すると共に、教職員への意識調査(聞き取り調査など)によって環境整備に関わる要請を調べる。 ・発達障害をもつ児童・生徒の聴覚特性として、騒音下での音声情報聴取、複数の音声情報が混在する環境での選択的聴取に困難を抱える例や、高い騒音レベルや特定の種類・周波数の音に対して強い拒否反応を起こす例がある。このような特有の聴覚特性を適切に把握するための補助手段として、各自の苦手な音の特性や複数の音が存在する条件下での選択的聴取機能の程度を明らかにするための診断システムの構築に向けた検討を行う。 ・音響面で課題が見られる学習環境について改善手法や補助具を提案し、効果を検証する。残響過多な教室への吸音材料の設置については、引き続き有効性を調べる。前年度有効性が確認された、吸音材を用いたリラックススペース、パーティションなどの補助具については、普及に向けて製作方法の検討を行う。 ・以上の成果を統合し、それぞれの学校施設の音環境の課題や、児童の感覚特性を適切に把握したうえで、学習・生活しやすい音環境を実現するためのプロセスを整備し、学校教員に向けて発信する。 なお、2020年度には、新型コロナウィルス感染症拡大防止のため現場での研究活動の実施に制限が生じる可能性があるが、音環境の整備の必要性、音環境に着目した環境設定の有効性、補助具の作成方法などに関する動画の作成など、現場の協力を得ずに遂行できる研究活動を進める。
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