研究課題/領域番号 |
19H01712
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
後藤 康志 新潟大学, 教育・学生支援機構, 准教授 (40410261)
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研究分担者 |
内山 渉 新潟医療福祉大学, その他部局等, e-ラーニング推進室長 (00377144)
吉崎 静夫 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (20116130)
姫野 完治 北海道教育大学, 大学院教育学研究科, 教授 (30359559)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | VR授業ポートフォリオ / メタ認知的活動支援システム / 専門家の価値 / 授業観 |
研究実績の概要 |
VR授業ポートフォリオを利用したメタ認知的活動支援システムを開発する。これは,授業の事実と,場面における手立てとその理由について,熟練者や過去の自己と比較できるもので,従来,支援できなかった教師のメタ認知的活動を可能とするものである。 教師の認知・判断・行動に影響を及ぼす要因に授業観を組み入れ,他者との比較を通して教師のメタ認知的活動を促す点である。申請者らは主観カメラ動画(ウェアラブルカメラで記録した授業者や授業参観者の視野範囲)を用いて教師の授業認知を把握し(後藤ら,2017),熟達教師は「今,この場面で自分が授業を引き継ぐとすれば,こうする」という前提で授業をみていること,その根拠を授業観に基づいて説明できることを明らかにした。VR授業ポートフォリオは,授業動画の認知・判断・対応とその根拠の文字情報を同期させ,可視化する。熟達者が手立てAや手立てCも考え,自分が選んだ手立てBではなく,手立てAを採用した例である。熟達者との比較を通して,授業者は手立てのレパートリー不足や,学習者の予測の不十分さなど様々な気づき,メタ認知的知識が拡充されよう。比較対象の「成立させたい学習」に触れることで自らのProfessional Valueを再認識し,自らの認知の特徴を把握した上で,手立ての適切性を自分なりに省察することができる。これによって初めて,次の認知・判断・対応を考えるためのメタ認知的知識が得られ,活用されると考える。こうしたアプローチは他に例を見ない。 主観カメラ動画を活用することで,他者と授業者の把握する授業の事実を確定して議論できる点である。VR授業ポートフォリオでは,他者と授業者の主観カメラ動画を時間的に同期することにより,いつ何をみてどう認知・判断・対応したかをピンポイントで検討できる。他のウェアラブルカメラを用いた研究とは全く異なるアプローチである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教師の資質能力の向上は喫緊の課題であり,養成・採用・研修の一貫した教員育成指標が整備されている。新潟市の教員育成指標でも授業力が挙げられている。歴史的には,教師の力量向上については欧米などからの理論の導入パラダイムから齋藤喜博のような優れた教師の実践の理論化のパラダイム,そして個々の教師の実践の中に理論を見いだすというパラダイムにシフトしてきている。外から理論を持ち込むのではなく,教師自らの実践を理論化する。 メンタリング,アクションリサーチともに「省察」が中核だが,多くは「行為の後の省察」によるものである。「行為の中の省察」に着目したのが生田の教師の授業実施時の認知をリアルタイムで把握するオンゴーイング認知法である。生田らは授業認知の位相転換に基づく授業技術の向上を支援するVR映像プラットフォームを構築しており,授業認知を映像,記号,行為というレベルで捉え,時間的・空間的制約なしで共有するシステムを開発する。 従来。教師の認知・判断・対応の違いは分かるが,なぜ違うのかを検討する共通基盤に乏しい。そこで,オンゴーイング認知をメタ認知的活動のモデルで捉え,熟達者との違いに学ぶVR授業ポートフォリオによる教師教育システムを開発した。熟達者と自己の認知・判断・対応を比較する教員研修システムに認知プロセスモデルの「手立ての適否の判断」の枠組みを組み入れ,適否の根拠として「成立させたい学習」という概念を用い,「行為の中の省察」を支援するVR授業に位置づけることで「行為の中の省察」の違いに学ぶ教師教育プログラム開発研究を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
教師教育プログラムの開発をプログラム化する。 開発は小学校社会科の個人間比較からスタートし,教科・校種を拡大しつつ,個人内比較(小学校社会科)の事例を蓄積し,教師教育プログラム化する。 開発するVR授業ポートフォリオを用いたメタ認知的活動は、主観カメラモードとVRモードを開発した。主観カメラモードは自己と熟達者の個人間比較によるメタ認知的活動であり、授業者,熟達者の授業観をインタビュー・質問紙で把握する。授業者と熟達者が協働で授業設計を行う。事前における実現したい学習と手立て,その予測を把握するために指導案を作成する。作成過程の音声を記録し文字情報化した。授業者,参観者それぞれに対して自己の主観カメラ映像における認知・判断・対応の解釈を求め,字幕化する。他者の手立てとその根拠を視聴することにより,自己の認知・判断・対応の特徴を語ってもらい,文字化して字幕として動画と同期して表示する。図4は,男児が指を押さえ,女児が注意する場面で熟達者と授業者の認知・判断・対応の違いが分かれた場面である。熟達者の成立させたい学習は「学習者自身が実験方法を考え,優先順位を付けて自ら調べる」であり,これと関係付けて初めて授業者は熟達者の認知・判断・対応が理解でき,自己との比較が可能になる。個別に行ったフェーズ4の結果を持ち寄り,授業観と手立てを関連づけながら熟達者と授業者で相互リフレクションし,自己の認知・判断・対応の特徴を明確化し,メタ認知的知識を拡充する。対話の内容を録音しデータ化する。 授業者が個人内比較を行う際には,授業を実施している過去の自分が比較対照となる。VR動画は視野範囲を自由に選べ,過去の授業をあたかも主観カメラを装着して観察しているかのように記録できる。注視範囲の記録とメタ認知的活動,過去の自分との比較によるメタ認知的活動を行い,メタ認知的知識を拡充する。
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