研究課題/領域番号 |
19H01745
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
結城 雅樹 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50301859)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会生態学 / 適応 / 関係流動性 / 対人行動 / 個人差 |
研究実績の概要 |
検討課題①「称賛行動を促進/抑制する社会環境要因の検討」:1)関係流動性と、ポジティブ・ネガティブ評判情報に対する敏感さ、またそれらの行動的帰結との関連を、日米でのオンライン調査で検討した。その結果、予測通り、自己主張度の文化差を、関係流動性とポジティブ評判追求傾向が統計的に説明した。2)予定していたベトナム国内の比較研究は、方法上の問題により、来年度以降に持ち越した。 検討課題②「被称賛への情動反応の社会差とその原因」:1)日米人を対象に、成功時の誇り・羞恥感情経験と関係流動性の関連の追試を行った。その結果、先行研究の結果が再現された。2)日米人が、成功場面で誇りもしくは羞恥を表出している人物をどう評価するかを比較した。しかし、測定尺度の問題が示唆され、来年度に問題を修正して再検討する。3)新型コロナウイルス流行収束の先行きが見えないため、予定していた唾液による感情測定を断念し、表情による測定の準備を開始した。 検討課題③「称賛・批判システムと協力行動の関連」:1)協力行動の隠蔽の文化差を検討した。協力隠蔽傾向が、関係流動性の低さ、ポジティブ評判の低さ、およびネガティブ評判期待の高さと関連していた。2)関係流動性と協力隠蔽との因果関係を検証する実験研究を行った。実験操作がうまくいかず、来年度以降の継続課題となった。3)協力行動を質的に二分し、関係流動性との関連を検討する研究を開始した。4)寄付行動と評判期待の関連を検討する調査を行った(データ分析中)。 検討課題④:青年期における被称賛、被批判経験が、成人後の行動傾向や心理傾向に与える影響をオンライン調査で検討した。明確な結果は得られなかった。 検討課題⑤:新型コロナウイルスの世界的流行により関係流動性が低下した可能性をふまえ、追加課題として、パンデミック以前の関係流動性を想起法で捉える心理尺度を新たに開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検討課題①「称賛行動を促進/抑制する社会環境要因の検討」:当初の狙い通り、関係流動性と称賛行動の多さもしくはポジティブ評判情報に対する敏感さとの関連が安定して観察されることがわかってきた。 検討課題②「被称賛への情動反応の社会差とその原因」:成功時の誇り・羞恥感情経験と関係流動性の関連、またポジティブ・ネガティブ評判情報に対する敏感さの媒介効果は再現され、安定した結果であると言えそうである。一方、これらの感情経験傾向が生理指標レベルでも観察されるのか、また本当に適応的な機能を果たしているか、については、来年度以降の検討課題である。 検討課題③「称賛・批判システムと協力行動の関連」:協力行動の隠蔽の文化差のパターン、および関係流動性・ポジティブおよびネガティブ評判期待との関連が予測通り得られた。さらに、これらの結果からいくつかの新たな検討課題が示唆された。 検討課題④「青年期における被称賛、被批判経験の影響」:安定した結果が得られなかった。 検討課題⑤「新型コロナウイルス流行以前の関係流動性を測定する尺度」:この尺度を他の検討課題でも積極的に用いており、その有用性が示されている。
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今後の研究の推進方策 |
検討課題①「称賛行動を促進/抑制する社会環境要因の検討」:関係流動性が称賛・批判行動やポジティブ評判・ネガティブ評判情報に対する人々の敏感さに与える影響、またその動機的・行動的帰結をオンライン調査で国際比較、地域間比較する。もしも新型コロナウイルスをめぐる状況が改善したら、ベトナムでの現地調査も試みたい。 検討課題②「被称賛への情動反応の社会差とその原因」:人前の成功場面でプライドもしくは羞恥を表出している人物に対する評価の社会差とその原因、成功場面での感情経験の違いが異なる行動を引き起こす可能性の検討、成功状況における感情経験を表情や生理指標等で測定・比較するための予備実験を実施する。 検討課題③「称賛・批判システムと協力行動の関連」:称賛・批判システムが引き起こす質的に異なる協力行動の分離、利他行動の隠蔽および寄付行動への影響、を検討する。 検討課題④「新型コロナウイルス流行以前の関係流動性測定法の確立」:本年度からの追加的な検討課題であり、新型コロナウイルス流行による社会環境の変化を踏まえた、新たな測定手法を検討する。 ※新型コロナウイルス流行の持続もしくは悪化によって実験や調査のデータ収集が困難になる可能性も考慮し、状況の変化に合わせて機動的に研究内容を調整していく。
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