研究課題/領域番号 |
19H01748
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
相馬 敏彦 広島大学, 人間社会科学研究科(社), 准教授 (60412467)
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研究分担者 |
古村 健太郎 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (40781662)
橋本 剛明 東洋大学, 社会学部, 准教授 (80772102)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DV / 相互作用 / 第三者 / 予防 / dyadic morality / 集合的効力感 |
研究実績の概要 |
本年度の主たる実績は次の二点である。 第一は、COVID-19の感染拡大以降の地域の集合的効力感の変化が、DV被害の変化の程度と関連することを、4波にわたるパネルデータに基づき明らかにした点である。感染拡大以前から測定していた調査データに、潜在曲線モデル分析を行ったところ、回答者のDV被害に大きな変化はみられなかったものの、集団的効力感の下位尺度のうち社会的統制の知覚は、時間の経過につれて低下した。また、社会的統制の初期値はその後のDVの抑制と関連する一方、社会的統制の維持、すなわち低下しない程度は独立して、DV被害の増加と関連することが示された。そして、探索的検討の結果、社会的統制の維持の程度は感染拡大時期における外出時間や関係外での会話の減少と関連することが示された。すなわち、集合的効力感の高さが、関係外の他者との相互作用を抑制するように機能することで、DV生起が抑制されなかった可能性が示された。この結果については、現在国際誌への投稿準備中である。 第二は、親密な関係の侵害の被害者の主体性に関する第三者の認識が、加害意図の知覚によって左右される条件を明らかにした点である。過去に被害者に関与した経験のある者を対象とする調査から、交際間もない当事者間での侵害や最近生じた侵害事案であるほど、加害意図によって、被害者に対する主体性の知覚が弱まることが示された。また、場面を想定された調査からは、侵害による被害を重大だと第三者が認識するほど、加害意図によって被害者の主体性知覚が弱まることが示された。これらの結果は、第三者のdyadic moralityによる判断が、生じた被害の顕現性によって左右される可能性を示すものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画を柔軟に変更したことで、DVのエスカレートに及ぼす関係外の他者やネットワークの機能プロセスについて新たな示唆を交えて解明を進めることができている。 第一のパネルデータに基づき示された結果から、第三者による集合的な効力感は、直接的にそのコミュニティ内のDV被害を抑制するのではなく、第三者と被加害の当事者との相互作用を介する形で機能することが確認できた。そして、第二の検討結果からは、相互作用の中での、第三者による加害意図についての知覚によって、第三者からみた被害者に対する主体性の認識が異なることが示された。被害者に対する主体性の認識は、その後の第三者から被害者への関わりのあり方にも影響すると予想される。つまり、第三者がDV加害者の意図をどう捉えるかが、第三者個人の規範や効力感とは独立して、被害者への関わりに影響するプロセスが示された。これは、第三者による道徳判断に着目することで、第三者介入の効果条件が明らかになる可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、日本人カップルにおいてDVの生起する相互作用プロセスに焦点をあて、それに周囲のネットワーク他者が与える影響を実証的に確認することを目的とする。 今後、次の三つの取り組みを実施する。第一に、親密な関係のペア両方に対する経験サンプリング調査のデータを用いて、相手からの攻撃被害への評価が当事者の事前の関係評価に影響されたり、暴力のエスカレートや評価が、直前の被害への対処や反すうによって影響されたりする可能性を検討する。第二に、親密な関係の侵害被害者と第三者それぞれからの調査データを得て、被害の顕現性が第三者からみた被害者の主体性判断に及ぼす影響を検討する。第三に、示された知見を活かし「よき第三者」を育成する予防プログラムの実施方法を検討する。
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