研究実績の概要 |
他者視点に対する理解力はすでに1歳半の乳児に見られるとの報告があり、わずか9か月の赤ちゃんにもその可能性がある。他者の視点に立って視点取得を行うには、自分自身が他者の占める場所に移動したと想像し(視点移動)、そこから風景がどう見えるのかを考える必要がある。この視点移動がいつ頃現れるのかを、生後4か月頃からの縦断研究で明らかにすることが目的であった。 15組の親子に毎月1回検査を受けていただいた。視点移動を捉えるため、画面に顔図形を提示し、片方の目を5秒間点滅させ、同時に2種類のブザー音(高音と低音)のいずれか一方を提示した。次に、反対側の目を点灯し、もう一方のブザー音を鳴らした。これを何度か繰り返して、目の左右と音の高低の対応を学習させた後、顔図形を90, 180, 270度のいずれかまですばやく回転し、今度はいずれか片方のブザー音だけを4秒間提示した。アイカメラで乳児の視線の動きを計測し、顔図形回転提示後の左右の目における注視時間を比較した。加えて、身体や社会性の発達との関連についても検討するため、親子の自由遊び場面の観察、遠城寺式乳幼児分析的発達検査なども行った。 目の半径の2.5倍の同心円を関心領域としてTobii Pro Lab で注視時間を算出した。正答側の注視時間が誤答側より長い場合に正答と判定した。記録がない場合や正誤側で同じ値の場合は無効とした。月齢で4~8か月、9-11か月、12-14か月の3群に分け、回転角度ごとの正誤の人数を比較したところ、4~8ヶ月の早期に顔刺激が上下逆さまに提示された180度の位置に対して、9~11か月の中間段階で右手側90度の位置に対して、それぞれ正答が誤答よりも有意に多かった。身体や社会性の発達との明確な関連は認められなかった。 今回の結果は1歳前の乳児にも視点移動が可能であることを示唆するものである。
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