研究課題/領域番号 |
19H01757
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
酒井 厚 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (70345693)
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研究分担者 |
眞榮城 和美 白百合女子大学, 人間総合学部, 准教授 (70365823)
梅崎 高行 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (00350439)
高橋 英児 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40324173)
室橋 弘人 金沢学院大学, 文学部, 講師 (20409585)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 社会情動的スキル / 認知的スキル / 縦断研究 / 仲間関係 / 信頼 |
研究実績の概要 |
本研究は、幼児期から児童期にかけての心理社会的および認知的な発達の相互影響性について、当該時期の2つのコホート集団(幼児コホートと児童コホート)を対象にした縦断調査データを基に検討するものである。具体的には、社会情動的スキルと認知的スキル、および両者に関わる要因(対象児の個人的特性や家庭や学校などの生態学的環境)を測定し、2つのスキルが相互に影響し合う関係性を軸として、他の要因が効果を与えるモデルを仮定し、適応的あるいは不適応的な発達のメカニズムを解明する。 令和元年度は、主に児童コホートの対象児が幼児期の頃に実施してきたデータを用いて複数の研究を行い、国内の学術雑誌への投稿と、国際学会での発表を行った。投稿論文では、5歳時点の実験調査に参加した約40名のデータから、子どもの約束理解の発達について検討した。その結果、幼児は大人から約束を反故される際に疑問的態度を表出するが、男児の方が女児よりも、約束事が多い家庭の子どもの方が少ない家庭よりも、表出が主張的であることを示し、国内の学術雑誌に採択された。国際学会の発表では、3歳から5歳までの縦断データを用いて、潜在成長曲線を用いた一連の発表を行った。主な結果として、1)子どもの衝動制御の高さや親の許容的な養育が、起点となる3歳時点の向社会的行動の高さを有意に予測すること、またこの向社会的行動は3歳から5歳まで年を追うごとに増加し、増加ペースには個人差があること、2)子どもの自己コンピテンスについては、母親自身の自己価値観の高さが起点である3歳時点の得点の高さを有意に予測し、コンピテンスが年齢とともに上昇すること、3)仲間との葛藤場面における「泣く」という消極的な対処方略については、年齢とともに減少する傾向が見られるとともに、親の養育態度が暖かいほど、3歳時点でも泣く方略が少ないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、幼児コホートの約220家庭と児童コホートの約130家庭に郵送による質問紙調査を実施した。主な調査内容は、子どもの社会情動的スキルと問題行動、気質などの個人的特性、親の養育態度や子どもの仲間関係など家庭や学校、地域における関係性であった。対象児が小学2年生までは養育者から情報を収集し、小学3年生からは、子ども本人にも他者への信頼や自己評価などについて尋ねた。 3歳と小学4年生の2時点のデータを用いて、社会情動的スキルと認知的スキルの関連について予備的な解析を行った。その結果、3歳時点の向社会性は、小4時点の向社会性(r = .52)と主要4教科の学業成績(r = .40)との間に、3歳時点の認知的コンピテンスは小4時点の学業成績(r = .61)と向社会性(r = .39)との間に、1%水準で中程度の有意な正相関が見られた。このことから、社会情動的スキルと認知的スキルは互いに、3歳時点の高さが小4時点の高さに関わる可能性が示唆された。 また今年度は、小学1、4、6年生を対象に、面接形式により認知的スキルを評価する調査実施を予定していた。調査内容は、学習を支える認知的基盤を評価する検査と、国語や算数などの基礎的な学習到達度と応用思考力であった。認知的基盤については、国際的に良く使用される構造化された検査器具を使用するため、トレーニング・マニュアルを作成して調査員の研修を行った。学習に関する情報は、当該学年の担任教員と各教科を専門に研究する研究者の協力を得てテストを作成し、小学生約200名を対象に2度の予備調査を行い、回答分布の良好な問題を作成した。 しかし、本調査は訪問あるいは会場を用意しての面接調査であったため、対象家庭を確保し3月に実施予定であったが、新型コロナウィルス禍の影響で延期となった。その分、当初から予定していた蓄積データの整理と入力の作業に注力した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は4年間の縦断調査のため、令和2年度も昨年度と同様の質問紙調査を実施する。各集団は、2020年3月時点で主に年少から年長までの幼児コホート約250家庭、小学3年生から6年生までの児童コホート約200家庭であり、それぞれに共通する内容の2つの調査を実施する。 1つ目の調査は、子どもの社会情動的スキルと気質および生態学的環境に関するものであり、対象児の他者との協働性や信頼、情動制御と問題行動、仲間との関係性に関する時系列的な変化とその関連要因の測定である。関連要因としては、対象児の気質やパーソナリティといった個人的特性と、親の養育態度や精神的健康状態、親によるピア・マネージメント、家庭と園および地域との信頼関係などの各種の生態学的環境要因を評価する。この調査は全家庭に対して毎年度に1回、郵送法により実施する。 2つ目の調査は、子どもの認知的スキルを評価するものである。学年が小学1年、4年、6年に到達した対象児のいる約100家庭に訪問、あるいは近隣の公民館などを会場として利用し、学習を支える認知的基盤や、国語や算数などの学習到達度とそれに基づく推論などの応用思考力を測定する。また、昨年度は新型コロナウィルスの影響から、認知的スキル調査を実施できなかった。そのため、昨年に予定していた現在小学2年生と5年生の家庭に、学習到達度の問題が当該学年にも適応可能であるかを吟味した上で実施を試みる。 しかし、認知的スキルの調査は、感染が収束して安全に実施できる状況にならなければ難しい。この点を考慮し、今年度は対象家庭に実施してきた調査で収集済みの多変量縦断データの整理を重点的に進め、社会情動的スキルの発達と関連要因について検討する解析を実施し学術論文としてまとめていく。縦断研究であるため、対象者の脱落はつねに考慮すべきであり、補填の必要があれば公的機関や関連団体を通じて募集活動を行う。
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