研究課題
本研究の目的は,様々な予測に基づいた行動と,その柔軟な選択を制御する心理学的・神経科学的メカニズムを明らかにすることである。頭部固定下の動物においてスクロース水溶液を用いた報酬性の条件づけ課題について検討を行ったところ,条件づけ手続きを繰り返すことにより,動物が異なる聴覚刺激を弁別し,予測に基づいた適切な行動反応を示すようになることが確認された。また,嫌悪刺激を用いた恐怖条件づけ課題についても検討したところ,動物は嫌悪事象の予測に従って強い恐怖反応を示すようになることが観察された。報酬性・嫌悪性どちらの条件づけにおいても期待された刺激(報酬あるいは嫌悪刺激)を呈示しない消去手続きを行った際には,予測に基づいた反応が低下した。このことから,快・不快を伴う条件づけ場面において動物は柔軟に行動を変化させることが可能であることが明らかになった。次に,頭部固定下の動物において,一定の時間間隔ごとに報酬が与えられる条件づけ課題の訓練を行ったところ,報酬が与えられるタイミングに近づくに伴って動物の報酬希求反応が増加した。その後,エサ報酬を与えないで反応頻度のピークを検討する「ピーク法」を用いて解析を行ったところ,本来報酬が与えられるタイミング付近で反応のピークが観察された。この実験系を発展させ,左右どちらかの吸い口から報酬が与えられ,セッション中に報酬が呈示される吸い口が変更される逆転学習課題を考案し,動物に柔軟な行動の変更が可能であることを示した。これらの結果は内的な時間知覚を手がかりにした場面においても,動物は柔軟に行動を切り替えることが可能であることを示している。さらに,行動中の動物における神経活動を観察するための,蛍光センサーを用いたリアルタイムイメージング技術について予備的な検討を行い,脳内の標的領域において行動と関連した神経活動が観察可能であることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の達成に必要な行動課題について,代表者と分担者の共同研究を通して多くの有益なデータを収集することができた。また,神経活動観察のためのイメージング技術についても,セットアップおよび基礎データの収集が順調に進んでいる。これらの理由から,おおむね順調に進展していると判断した。
「情動に関連する予測」および「空間や時間を使った予測」に基づいた行動課題において,各刺激パラメータの変更が行動に及ぼす影響についてより詳細に解析を行うことにより,予測に基づいた行動とその柔軟な制御に関与する心理学的なプロセスについて明らかにする。また,光遺伝学を利用した神経操作技術,および新たに立ち上げた神経活動イメージング技術を適用することで課題中の神経活動とその機能的役割についても検討する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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