研究課題
本研究の目的は、様々な予測に基づいた行動と、その柔軟な選択を制御する心理学的・神経科学的メカニズムを明らかにすることである。頭部固定下の動物において、液体報酬を用いた報酬性の条件づけ課題を行ったところ、条件づけ手続きを繰り返すことにより、動物が異なる聴覚刺激を弁別し、報酬予測確率の違い(20%あるいは80%)に基づいた適切な予測反応を示すようになることが確認された。また、嫌悪刺激を用いた恐怖条件づけ課題においても、動物は異なる聴覚刺激を適切に区別し、嫌悪事象の予測確率に基づいた恐怖反応を示すようになることが観察された。本研究では、このような報酬あるいは嫌悪事象の予測に基づいた柔軟な行動選択を司る神経メカニズムとして、ドーパミンに着目した。その役割を明らかにするため、蛍光ドーパミンセンサーを使ったリアルタイムドーパミン解析法を確立し、報酬学習・嫌悪学習中の動物における脳内ドーパミン測定を行った。頭部固定下の動物において、一定の時間間隔ごとに報酬が与えられる条件づけ課題の訓練を行ったところ、報酬が与えられるタイミングに近づくに伴って動物の報酬希求反応が増加した。その後、エサ報酬を与えないで反応頻度のピークを検討する「ピーク法」を用いて解析を行ったところ、本来報酬が与えられるタイミング付近で反応のピークが観察された。この課題において、NMDA型グルタミン酸受容体およびムスカリン性アセチルコリン受容体を薬理学的に阻害したところ、動物の時間知覚の正確さが阻害されることが明らかになった。この時間経過に基づいた柔軟な報酬予測行動を司る神経メカニズムの詳細について明らかにするためには、光遺伝学や化学遺伝学といった神経操作技術が有用である。そのため、遺伝子改変動物を導入し、繁殖させることで、効果的な神経細胞種選択的ないし経路選択的な神経操作を行うための実験環境を整えた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の達成に必要な行動課題について、代表者と分担者の共同研究を通して多くの有益なデータを収集することができた。また、神経活動観察のためのイメージング技術と神経活動操作技術についても、セットアップおよび基礎データの収集が順調に進んでいる。これらの理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
「情動に関連する予測」および「空間や時間を使った予測」に基づいた行動課題において,各刺激パラメータの変更が行動に及ぼす影響についてより詳細に解析を行うことにより,予測に基づいた行動とその柔軟な制御に関与する心理学的なプロセスについて明らかにする。また,新たに立ち上げた神経活動イメージング技術および神経操作技術を適用することで課題中の神経活動とその機能的役割についても検討する。
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Japanese Journal of Physiological Psychology and Psychophysiology
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