本申請研究では、脳内の同期的神経活動がヒトの知覚や認知に及ぼす効果を検証することを目的としている。まずはtACSによる神経引き込みが確実に観察できる条件を模索し、再現性の高い実験条件を確立した。実験では、さまざまな周波数の組み合わせで視覚皮質をtACSで刺激し、視覚刺激を用いた課題の正答率や反応時間を比較した。同時に脳波を測定した。さらに、脳内の神経同期活動を誘発させる光刺激を用いて、知覚されない速さで明滅する刺激が、視覚刺激の知覚に影響を及ぼすことを見出した。実験では、融合閾値よりも高い周波数で光刺激を明滅させ、その組み合わせで差分の同期的神経活動が生じる条件を作った。被験者は、光刺激の明滅をまったく知覚できていないにもかかわらず、反応には差分として生じたと考えられる同期的神経活動の効果だと推察される影響が出ることを見出した。この実験では同時に脳波も測定し、刺激の周波数成分に対応する脳波成分を確認した。この結果は、査読つき国際誌に受理され、近日中に掲載される予定である。続いて、視覚刺激と聴覚刺激を時間的に変調させ、視聴覚の情報統合に注意が及ぼす効果を測定している。得られた結果を用いて情報統合のモデルを作成中である。また、神経引き込みを利用して、比較的低次の情報処理である感覚刺激の知覚の機序および比較的高次の情報処理である記憶と審美判断の機序を検証した。知覚から審美の認知まで、異なる情報処理の段階における脳内の同期的神経活動の効果を検証できたと考える。
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