研究課題
心の理論(他者の心的状態に関する理解)に関して研究を行い、前年度までに、類人猿がアイ・トラッキングを用いた予測的な注視課題において、他者の誤信念(現在の状況とは異なる状況に対する信念)を理解する可能性を示唆する成果を上げた。今年度は、同実験がマカクザルでも追試された成果を受けて、短い総説を執筆し、また、同実験を発展させ異なる条件でも同様の結果が認められるのかさらに実験を行った(分析中)。他に、ボノボとチンパンジーにおいて、オキシトシン投与実験を行い、オキシトシンがアイ・コンタクト行動にそれぞれの種おいて異なる影響を与えることを見出した(ボノボにおいてアイ・コンタクトを促進させるが、チンパンジーにおいてはそうではなかった)。哺乳類全般に一般的なホルモンが霊長類近縁種の社会的行動に異なる影響を与えることを見出した点において、社会的行動の進化に示唆を与える結果となった。また、霊長類とは系統的に離れたカラスにおいて視線追跡法を確立するため、モーションキャプチャールームを構築し、その設備を用いて、カラスの視線の使い方(興味対象を見るときの視線のパターン)について予備的な実験を行った。具体的には、鳥類は霊長類とは異なり、一つの目に二つの中心窩を持つ(一つは横を向き、もう一つは正面を向く)ため、目の前に興味対象を提示したときにどのような場合にどの中心窩を向けるのかということを実験し、分析した。鳥類の視線追跡法を確立するための重要な基礎的データとなる。将来的に、類人猿を対象に行ったような、心の理論に関する予測的な注視課題を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍で遅れた研究はあるが、動物を対象にした研究は順調に進んだ。結果は分析中である。
申請者が2021年4月1日よりコンスタンツ大学に就職したために、課題を中断し、帰国後、研究を再開する予定である。渡航中は、鳥類やヒトを対象に、集団行動と社会的認知の関連性に関して、モーションキャプチャシステムなど最先端技術を利用し、研究を進める予定である。心の理論研究に関しては、ヒトの大人と子供を対象にした実験も行う予定であったが、コロナ禍の影響によって遅れている。渡航中あるいは帰国後には実験(上記の改変された予測的注視課題)を行うことができると思われる。カラスの研究は、施設が日本に残されているが、学生が一人引き継ぎ、研究を進める予定である。帰国後もすぐに再開できる見込みがある。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件)
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