研究課題
人の意識はいつ、どのように形成されるのだろうか?本申請では、成人で確立された視覚的注意パラダイムを乳児用に落とし込んだ実験を行う。すなわち成人で使用されている「視覚的注意」課題を乳児に用いることにより、「意識」の形成過程について行動実験と脳波計による脳計測から検討する。特に、乳児の注意研究で未開拓である「時間的負荷」を扱うことにより、成人と同様の作業記憶がいつ成立するかに焦点を当てる。本申請では、成人で確立された視覚的注意パラダイムを乳児用に落とし込み、乳児を対象とした実験的な検討を行う。これまで乳児研究は定位 課題での注意研究はあるものの、本申請のように二重課題負荷や構えといった作業記憶が関わる研究事例は極めて少ない。申請者は生後1歳未満の乳児を対象に、運動視や形体視・陰影の処理・顔知覚などの視覚発達の研究を行ってきた。その中で前注意過程ともいえる「前恒常性(pre-constancy)」(Current Biology, 2015)の期間が生後3-4ヶ月頃に存在し、生後7-8ヶ月で成人と同様の視覚処理(物体の質感に基づく処理)が行われることを突き止めた。本申請では、本知見やこれまで得てきた高次な知覚発達の知見に基づき、生後7-8ヶ月前後になんらかの注意処理の獲得が見られることを前提に、実験的検討を行う。すなわち、成人で使用されている「視覚的注意」課題を乳児に用いることにより、「意識」の形成過程について行動実験とEEGを用いた脳計測から検討したい。本申請では特に、乳児の注意研究で未開拓である「時間的負荷」を扱うことにより、成人と同様の作業記憶がいつ成立するかに焦点を当てる。乳児を対象とした視覚的注意課題手続きの構築は、視覚的注 意を専門とする研究分担者の北海道大学河原純一郎准教授と行う。
2: おおむね順調に進展している
実験で脳計測の実験のために必須となる脳波計(EEG)を購入し、成人用と乳児用それぞれ計測できるように機器の調整を行っている。さらに乳児向けの実験手続きの確立を目指した準備実験を行った。提示された刺激が各月齢の乳児にとって適しているか否かを確認するため、研究室にすでにあるアイトラッカーを用いた実験についても現在第一段階のデータ収集を終了し、論文作成を行っている。このように行動実験については、順次論文を投稿しつつ、さらなる実験を行っている段階である。生後6ヶ月から8ヶ月までの物体ベースの注意の発達については、空間的な距離によらず特定の物体に注意を向けることで、物体内の処理を促進する機能であるobject-based attentionを扱い、object-based attentionは生後8ヶ月頃に獲得されることを明らかとした結果をInfant Behavior and Developmentに発表した。高速提示の時間を検討する実験は引き続き行っているが、乳児が自発的に選好する顔を題材として用い成人の提示時間に基づいた実験を、第一弾として行った。すなわち5-8ヶ月児を対象に高速逐次視覚提示中の顔検出および同定能力を調べる実験を行った。まずは100msで呈示される複数の画像を乳児が知覚できるのかを、成人において知覚可能なSOA100msと知覚困難なSOA11msの画像系列を対呈示し選好注視法で調べ、SOA100msの画像系列中に提示される顔を検出できるか、さらに個人の顔として同定できるのかを、5-8ヶ月児を対象として実験を行った。これら第一段の実験はJournal of Experimental Child Psychology誌に発表した。今度も引き続き時間的側面を詳細に検討しつつ、脳計測を駆使した実験を行っていく。
現在までの進捗状況にある通り、実験結果は順次論文として発表し、発達の専門誌などで高い評価を得られた研究内容となっているが、今後は認知系の専門誌、あるいは専門誌を超えた一般誌でも評価を得られる研究として発表できるようなデータを収集するべく実験計画を洗練させている。すなわち、意識がどのように形成されていくかについて、その解明の一助となる研究成果をあげるべく、特に現在準備中の脳計測の実験のための脳波計(EEG)を活用した研究を行う。成人用と乳児用それぞれの計測を行い、乳児向けの実験手続きの確立を行うことにより、意識の形成過程とその脳内過程を明らかにすることを最終的な目標とする。アイトラッカーのデータも活用した実験のデータ収集については、昨年度から行っている研究課題を、引き続き行う。高速提示の時間を検討する実験は、新たな実験を引き続き行っている。成人で多くの実験が行われている「注意の瞬きAttentional blink」の乳児版の実験について、顔をターゲットとして実験を計画した。「注意の瞬きAttentional blink」とは、高速で提示される画像系列から2つの標的を検出する時、標的間隔が500ms以下である場合、第1標的は検出されるが、第2標的は検出されない現象である。顔をターゲットとして実験を計画し、実験データを終了し、論文執筆中である。さらに高速提示の時間的限界についての発達の検討を行う予定である。なお4月現在の時点では乳児実験は再開できない状況ではあるが、乳児実験が再開されたところで十分なデータが取れるよう、乳児実験の実験協力者のデータベースの確保と、実験計画の洗練、成人を対象とした実験準備などから準備を行う体制を整えている。研究協力者間の連絡も、スカイプなどを活用して行っている。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 9件、 招待講演 5件) 図書 (3件)
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