研究課題/領域番号 |
19H01775
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
神前 裕 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (80738469)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 連合学習 / 道具的行動 / 消去 / 更新効果 / 文脈条件づけ |
研究実績の概要 |
ヒトを含む動物の自発行動について、消去中の学習機構を明らかにするため3つの実験を遂行した。具体的にはラットを被験体として、道具的行動の消去中に文脈刺激と道具的行動が連合的競合を持ちうるか、ABA更新パラダイムを用いて検討した。更新効果とは、消去文脈とは異なる文脈で行動がテストされると消去された反応が復活する効果である。この際、消去中に文脈刺激が制止性連合を獲得することでレバー押しの強度低下を妨害する(「消去からの保護」)可能性について検証した。 実験1では、実験群に対してレバー押しを形成した後、異なる文脈刺激Bで消去訓練を行う際に並行して文脈刺激Bに対する文脈条件づけを実施した。統制群は、文脈Bでレバー押し消去を受けながら、並行して文脈Cでの文脈条件づけを経験した。消去からの保護が生じることが更新効果の連合機構を提供するならば、実験群では文脈B自体の条件づけにより制止性連合の形成が阻害され、結果的にレバー押しを保護する効果が阻害されるため、ABA更新効果が弱まると予測した。結果として、実験群と統制群は統計的に同程度の更新効果を示し、いずれもAAA統制群よりもテストにおける反応率が有意に高かった。 実験2では文脈条件づけの期間を延長して同じ予測を検証した。消去フェイズのみならず、最初の獲得訓練中も並行して文脈BまたはCで文脈条件づけを実施した。結果は実験1と変わらず、消去からの保護がABA更新効果を生み出す証拠は見つからなかった。 実験3では文脈Bでのレバー押し消去訓練と文脈条件づけ訓練の際の文脈刺激を可能な限り同一に保つ変更を行った。しかし結果は実験1、2と同様であった。 これらの実験から、道具的行動のABA更新効果については少なくとも、消去からの保護による連合的な説明は妥当でないという結論が得られた。現在、このデータを研究論文として出版する準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症によるキャンパスの立入制限・研究活動の制限などが課せられたため、当初の研究計画については、一部実施が困難なものがあった。また立入制限の解除後も、予期せず研究が中断する可能性が高く見積もられたため、長期間に渡る行動神経科学的実験(動物の外科手術によるカニューレ埋め込みと術後回復期間をおいた後の行動実験)を必要とする当初の計画については延期し、その代わりに、より短い実験期間で実験が完了する研究を積み重ねる研究方略を採用した。ここから、随意行動の消去についての連合メカニズムを解明するという当初の研究目的に沿って、新たな知見を得ることができた。特に行動の消去中に文脈刺激と道具的行動の間で連合の競合・相互作用が生じないという結果は、これまで間接的な指標を元に示唆されてきたが、今回の研究では積極的な実験操作を行いそこから明確な結論を得ることができた。随意行動の消去メカニズムの解明に向けて、一定の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は当初の研究計画で予定していた道具的行動の消去における目的的過程と習慣過程の独立性およびその神経基盤検証を行う予定である。現時点でもCOVID-19による研究活動への一定の制限が課せられているものの、昨年度の経験により、ある程度の制限下でも着実に研究を遂行できる目処が立っており、予定通りの研究遂行が可能であると考えられる。また、昨年度の研究から得られた消去における更新効果についても、合わせて神経科学的検証を行う予定である。
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