報酬性事象によって動機づけられた自発行動が消去される際に、その後の行動の復活をもたらす学習機序についてラットを用いて検証した。ABA更新効果(renewal effect)のパラダイムにて、文脈Bでの道具的行動の消去訓練の際に、文脈が制止子になることで行動と結果事象(餌)との連合強度の低下が防がれる可能性(消去からの防御)を検討した。研究1では文脈Bでの消去訓練中に同時に文脈Bに対して文脈条件づけを訓練する群、文脈Cに対する文脈条件づけを訓練する統制群、文脈Aで消去を行う更新統制群の3群において、文脈Aでの更新テストの成績を比較した。訓練条件や刺激の呈示方法などを変えて4つの実験を行なったが、結果としていずれも強い更新効果が見られ、文脈Bに対する条件づけ効果は見られなかった。本研究からは消去後の更新効果、すなわち消去中の行動ー結果連合の一定の保存は、行動と文脈が制止性連合の発達を巡って競合した結果ではなく、行動ー結果連合が文脈刺激による階層的な制御の下に入った結果として捉えることが妥当であると結論づけられる。本研究の成果について、現在論文を執筆中である。 さらに研究2では、更新効果として再発する行動を制御する連合構造について、強化子低価値化手続きを用いて検証した。過剰訓練を受けたラットはABA更新テストにおいて強化子の価値表象を伴わない習慣として行動を再発させ、一方で通常訓練を受けたラットは低価値化効果を伴う目的的過程としての行動再発を示した。さらに、強化子低価値化を文脈Bでの消去後に実施した場合には、通常は習慣として再発する条件においても目的的な行動が再発することを示した。一般的には近年のBoutonらの主張に一致する結果が得られたが、一方で習慣行動が目的的行動に再び遷移する要因についても明らかにすることができた。この成果については論文執筆まで完了し、投稿の段階にある。
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