研究実績の概要 |
記憶は、再生されると変容する性質を持っている。記憶は、覚醒中だけでなく睡眠中にも再生されるので、睡眠中にも変容している可能性が高い。特に、レム睡眠中の脳の状態は覚醒中に近く、記憶は夢として再生されやすいため、「記憶の変容は、ノンレム睡眠中と比べて、レム睡眠中で大きい」(仮説1)可能性があ る。一方で、ノンレム睡眠中には記憶の固定が生じることがわかっている。したがって、記憶は「ノンレム睡眠中に固定され、レム睡眠中に変容される」(仮説2)というサイクルを通して形成されている可能性がある。本研究の目的は、ヒトを対象として、睡眠中のエピソード記憶の固定と変容をノンレム睡眠とレム睡眠 を区別して計測し、上記仮説1および2を検証することである。記憶は、記銘(encoding)、固定(consolidation)、再生(recall)のサイクルを通して形成される。一方で、記憶は、再生されると変容することが知られている。特に、エピソード記憶は、経験したことに関する口述可能な記憶であり、変容しやすい (Loftus, Learning & Memory, 2005, 12: 361-66)。動物実験では、エピソード記憶は、覚醒中だけでなく、睡眠中にも再生されることが知られている(Wilsonet al., Science, 1994, 265: 676-9)。再生され、変容した記憶も、記憶形成サイクルに組み込まれることを考えると、エピソード記憶の変容は、覚醒中だけでなく、睡眠中にも生じている可能性が高い。しかし、睡眠中の記憶の「変容」については、分かっていないことが多い。本研究の結果、睡眠中の記憶の変容は、覚醒中やノンレム睡眠中と比べて、レム睡眠中に生じやすいことがデータによって実証された。本年度は、本研究の成果をまとめ論文を執筆した。
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