研究課題/領域番号 |
19H01781
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市野 篤史 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40347480)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 局所対称空間 / コホモロジー / 関手性 / p進L関数 / p進保型形式 / p進Abel-Jacobi写像 |
研究実績の概要 |
Kartik Prasanna(ミシガン大学)と共同で、楕円保型形式と虚二次体の量指標から定まる次数4のL関数の研究を行った。特にL関数の符号が負の場合に、中心微分値と代数的サイクルの関係を明らかにすることを目標として研究を行った。量指標がイデアル類群の指標の場合、Gross-Zagier公式により微分値がHeegner点とよばれるサイクルを使って表せることが知られている。この公式は80年代に証明され、今まで様々な場合に拡張されてきた。その1つがBertolini-Darmon-Prasanna公式であり、これはより一般の量指標に対してp進L関数の中心値を一般Heegnerサイクルを使って表すものである。この公式においては無限素点における符号が負と仮定する必要があるが、本研究はこの仮定を外すことを目的とする。無限素点における符号が正の場合、今まで対応するサイクルが何になるか知られておらず大きな障害となっていたが、2次Siegelモジュラー多様体上のある種のサイクルが所望のものであることが判明した。 研究代表者単独で、実数体上のテータ対応の研究を行った。この方面においてはたくさんの先行研究があるが、Jian-Shu Liによる十分正則な離散系列表現のテータ対応の具体的な記述を拡張することを目標として研究を行った。特に本研究はユニタリ群の特異ユニタリ表現に対してテータ対応を記述し、志村多様体の連接コホモロジーの研究に応用することを目的とする。前年度までの研究により離散系列表現に対しては既に完全な記述を得ていたが、それを拡張するときに生じていた解析的困難を克服し、緩増加表現に対しても完全な記述を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
楕円保型形式と虚二次体の量指標から定まる次数4のp進L関数の研究を、今年度の課題の中心に据えて研究活動を行った。コロナ禍のため、共同研究者のPrasannaとは直接会って研究打ち合わせを行うことができなかったが、毎週オンラインでミーティングを行うことで研究を推進することができた。特に概正則保型形式の族とそれに対応するp進保型形式の族のp進極限に関して議論を行い、紆余曲折の後に2次Siegel保型形式が適切な枠組みを与えることが判明した。このような枠組みは、楕円保型形式に対してはSerreの微分作用素によって与えられることが古くから知られていたが、本研究はその高次元版が存在することを示唆するものである。この研究成果について現在論文の執筆を進めているが、技術的な計算を全て完了することができた。 実数体上のテータ対応の研究は、ユニタリ群の緩増加表現に対して完全な記述を得ることができた。この研究成果は論文としてとりまとめられ、既に雑誌に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
楕円保型形式と虚二次体の量指標から定まる次数4のp進L関数の研究に関し、まずは論文の執筆を完了を目指す。また、この成果は現時点では補助的に現れるL関数の中心値の非消滅性を仮定する必要がある。この仮定は技術的なものであるが、外すためには分岐を許した膨大な計算を必要とする。しかしこの計算は不可能ではなく、次にこれを遂行することが当面の課題である。さらに、今までの研究から得られた事実は、より大きな理論の一端である可能性が高いと思われるが、一方で非常に特殊化された状況であり安直な一般化は難しい。そのため理論的・実験的な考察を両側面から深め、研究成果の高次元化に向けて研究を推進する。
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