研究課題/領域番号 |
19H01786
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
太田 慎一 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00372558)
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研究分担者 |
横田 巧 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70583855)
高津 飛鳥 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (90623554)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リッチ曲率 / フィンスラー幾何学 / ローレンツ幾何学 / 測度の集中 / 情報幾何学 / エントロピー |
研究実績の概要 |
研究代表者の太田は,Yufeng LU氏(大阪大学),Ettore MINGUZZI氏(フィレンツェ大学)との共同研究を継続し,epsilon rangeと名付けた新しい重みつきリッチ曲率の下限の概念の下での比較定理を確立した。epsilon rangeは,重みつきリッチ曲率が定数以上であるという古典的な状況とWylie-Yeoroshkin及び桑江-Liによる関数で重みつきリッチ曲率を下から押さえる状況を統合し,一般化するものである。epsilon rangeを用いた重みつきリッチ曲率の下限条件の下で,フィンスラー多様体とローレンツ・フィンスラー多様体双方において,Bonnet-Myers型の定理,Bishop-Gromov型の体積比較定理,ラプラシアンの比較定理を示した。この中で,ローレンツ・フィンスラー多様体のラプラシアンの比較定理は分解定理への応用を視野に入れている。 研究分担者の横田は,数川大輔氏(大阪大学)と共同で,測度の集中に関連した位相の基本的な性質についての研究を行い,ボックス位相でのプレコンパクト集合のリプシッツ順序における有界性を示した。これはGromovによる主張に厳密な証明を与えるものである。 研究分担者の高津は,松添博氏(名古屋工業大学)と情報幾何学におけるエントロピーについての共同研究を行った。情報幾何学においてエントロピーの概念は重要な役割を果たし,そしてエントロピーからダイバージェンスが定まるが,ダイバージェンスがエントロピーを定めるとは限らない。このことは「エントロピーの不定性現象」と呼ばれ,今年度の共同研究ではエントロピーの不定性現象の具体例を構成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,最適輸送理論や勾配流と間接的に関わる比較幾何学,測度の集中,情報幾何学の研究に進展があったため,それらを中心に研究を行い,一定の成果を得た。epsilon rangeによるリッチ曲率の下限条件は最適輸送理論を用いて定式化されるエントロピーの凸性で特徴づけることができ(桑江-櫻井),他にも剛性(比較定理の等号成立条件)などの関連研究が進んでいる。測度の集中に基づく空間の収束理論や,情報幾何学と最適輸送理論(どちらでもエントロピーが重要な役割を果たす)の関係は重要な研究対象であり,本研究課題にも関わってくる。より本研究課題に直接関係する研究についての準備にも並行して取り組んでおり,着実に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ローレンツ・フィンスラー多様体の重みつきリッチ曲率に関連した共同研究は継続して行い,特にラプラシアンの比較定理に基づく分解定理を確立する。また,最適輸送理論に基づく局所化を利用した比較幾何・幾何解析に関する研究,特に等周不等式や関数不等式の剛性・安定性の研究を続ける。 この他に,勾配流の研究について,研究の進んでいるCAT(0)空間以外の距離空間上の凸関数の離散・連続勾配流(最適化)についての下準備を進めており,フィンスラー多様体やノルム空間上の凸関数を扱える枠組での研究を行う。 Wasserstein距離の計算理論に関しては,CuturiによるSinkhorn法の仕組みを数学的に検証し,部分的に一般化する研究を進める。
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