研究課題/領域番号 |
19H01789
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾畑 伸明 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (10169360)
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研究分担者 |
洞 彰人 北海道大学, 理学研究院, 教授 (10212200)
田中 太初 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (50466546)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子確率論 / スペクトル解析 / 漸近的組合せ論 / 代数的組合せ論 / 直交多項式 / ネットワーク数理 / グラフスペクトル / 量子ホワイトノイズ |
研究実績の概要 |
統計性の源泉を非可換代数とその表現に求める手法として、量子分解は量子確率論の基本的な概念であり、量子確率解析やスペクトルグフ理論などと関連して発展してきた。本研究では、グラフのスペクトル解析を通して量子分解法を拡張することを目標として、次の4課題を扱っている。 (1)成長するグラフの同時スペクトル分布と付随する多変数直交多項式の決定:量子分解法は、グラフのスペクトル分布、特に成長するグラフに対する極限分布を求める手法として確立してきた。ただし、従来研究では1変数直交多項式に帰着される場合に限られているため、その制限を取り払うことが重要な課題となっている。そのための試論をいくつか検討している。一つの成果は、強正則グラフの直積に対して、隣接行列と補グラフの隣接行列の2変量の分布(同時スペクトル分布)と付随する2変数直交多項式の詳細構造を導出したことであり、国際共著論文として発表した。 (2)アソシエーションスキームに付随した量子分解法の多変数化:上記の強正則グラフの議論は、距離正則グラフ、あるいはより一般のアソシエーションスキーム上で展開するのがより自然であり、代数的組合せ論の立場から準備研究を開始した。さらに、グラフのスペクトル解析という観点から、距離行列のQE定数という新しい不変量を導入して基本的な性質を調べるとともに、多くの具体的な計算を蓄積した。その一部は国際共著論文として発表した。 (3)多変数直交多項式を特徴づける量子成分の非可換構造の抽出:量子分解の多変数化を直交多項式の視点からとらえれば、多変数直交多項式系に対して定義される「多変数的に拡張されたヤコビ行列」が鍵となる。そような拡張されたヤコビ行列に退化指数という概念を導入してスペクトル測度の特徴を捉える研究を継続している(前年度に最初の国際共著論文を発表)。 (4)量子ホワイトノイズ解析の集大成:文献調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、年度当初から年度末に至るまで、新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、国民に対する多くの行動制限がかかり、大学の管理運営およびオンライン教育に係る業務が激増したため十分な研究時間の確保が困難であった。さらに、本研究で重要なパートを占める国際共同研究では、海外機関の感染症対策の状況も同様であり、研究遂行上の制限が大きく、研究計画の実施が極めて限定的になった。
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今後の研究の推進方策 |
グラフのスペクトル解析における量子確率論の視点を広げるために、グラフに付随する様々な行列に対するスペクトル解析を検討する。特に、距離行列から定義されるQE定数について新しい展開が見込まれるため、基本的性質の探求と具体例の収集を継続する。QE定数は研究代表者が導入したもので、その役割についてはまだ不確定であるが、グラフ構造を反映する新しい不変量として期待できる。これを受けて、目的に掲げた4項目については以下の通りとする。 (1)成長するグラフに付随する複数の行列から得られる同時スペクトル分布の諸性質とその極限分布を導出し、対応する多変数直交多項式を決定する。強正則グラフや距離正則グラフに対する一般論の構築を目指す。 (2)上記の距離正則グラフの議論は、アソシエーションスキーム上で展開するのがより自然であるという見通しの下、代数的組合せ論からの準備研究を継続する。 (3)量子分解の多変数化を直交多項式の視点から整理する。多変数の場合は、直交多項式の代数的構造をスペクトル分布にいかに関連付けるかが困難な問題になる。適切に定義された量子成分の満たす交換関係によって、確率分布の特徴づける試論を検討する。 (4)量子ホワイトノイズ解析の集大成として、高次ホワイトノイズによって定義される作用素、作用素のユニタリ性の判定条件、正規積への変換と繰込みとの関係を明らかにする。 新型コロナ感染症拡大により、発表を予定していた国際会議がすべてキャンセルとなり、海外渡航(たいがいの国内出張も同様)を伴う研究活動が止まっている。数学の議論ではオンラインではなく対面の方が明らかに発展性があるので、新型コロナ感染症の収束を見通しながら、国際共同研究の再開の機会をとらえる。一方、オンラインによる研究連絡はこれまで通り継続する。とりわけ、課題(3)と(4)については、海外協力者との共同研究体制の立て直しを行う。
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