研究課題/領域番号 |
19H01792
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻本 諭 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (60287977)
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研究分担者 |
佐々田 槙子 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (00609042)
加藤 毅 京都大学, 理学研究科, 教授 (20273427)
Croydon David 京都大学, 数理解析研究所, 准教授 (50824182)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 離散可積分系 / 確率論 / Pitman変換 / 箱玉系 |
研究実績の概要 |
2020年度は、近年数理物理分野で盛んに研究されている、可積分系を対象に流体力学の理論を一般化した「一般化流体力学」が、箱玉系に適用できることを明らかにした。特に、箱玉系のソリトン密度のマクロスコピックな時間発展が、一般化流体力学方程式と呼ばれる一階の偏微分方程式に従うことを厳密に証明し、論文にまとめて公表した。このように、具体的なモデルに対して一般化流体力学の理論が数学的に厳密な形で検証されている例はほとんどなく、数理物理分野の研究者にも大きなインパクトを与えた。本結果に関して、国際研究集会で多数の発表も行なった。箱玉系は一般化流体力学の理論の厳密な検証が可能となりうる典型的なモデルとして今後広く活用されることが期待される。また、離散可積分系と固有値計算アルゴリズムとの関係は知られていたが、超離散可積分系の基礎方程式である箱玉系の拡張系を用いることで、二重対角整数行列の単因子が計算可能であることを明らかにした。この箱玉系の拡張系は超離散戸田格子のGCD拡張を新たに導入することで実現したものであり、オートマトン系の計算アルゴリズムとしての新しい機能と方向性を見出すことに成功した。さらに、超幾何方程式を一般化したホインの微分方程式のq類似に対して、直交関数系の観点から双直交有理関数や代数的な拡張を与えることに成功した。ここで得られた双直交関数系の理論の成果は箱玉系の拡張とその厳密な解析を可能とするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調である。離散可積分系に対して確率論的な解析を行う一つの重要な動機は、離散可積分系を大規模相互作用系とみなして、統計力学的な解析を行うことであった。特に、マクロスコピックな時間発展を扱う非平衡統計力学的な解析を行うことは、非常に重要な目標であった。昨年度までに行なってきた不変測度の研究や箱玉系の線形化に関する研究は、時間発展を伴う非平衡現象の解析を行うための準備段階と考えることもでき、今年度得られた一般化流体力学極限は、これまでの成果をもとにして、一つの大きな目標を達成したと考えることができる。ただし、今回得られた一般化流体力学極限は、ソリトンの種類が有限であること、初期時刻においてソリトンが1次元ユークリッド空間R全体ではなく、R_+上、すなわち半直線上に集中していること、という二つの技術的な仮定をおいており、これらを外すことは今後の課題である。さらに,箱玉系と整数行列の単因子との関係はこれまでにない新しい発見であり,新しい箱玉系の研究の方向性を指し示すものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、箱玉系の一般化流体力学極限において必要していた技術的な仮定を外すことを目指す。ソリトンの種類が有限である、という仮定については、ソリトンの密度ベクトル全体を適切なヒルベルト空間の元とみなした解析を行うことで外すことができると考えており、すでに具体的なアイディアが得られている。一方、初期時刻においてソリトンが半直線に集中している、という仮定については、一般化するにあたって、箱玉系の玉の配置を線形化する際の「基点」の時間発展をとらえなければならず、この方法を今後検討する。さらに、これらと並行して、より一般の離散可積分系に対して一般化流体力学極限を厳密に証明することを目指す。まずは様々な変形された箱玉系を対象に、一般化流体力学極限のために適切な線形化の方法を可積分系の専門家から学び、それを用いて箱玉系で行なった手法を適用する計画である。また,拡張箱玉系を出発点とする効率的な単因子計算アルゴリズムの開発についても検討を進めていきたい.
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