研究課題/領域番号 |
19H01795
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
久保 英夫 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50283346)
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研究分担者 |
加藤 正和 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 講師 (30526679)
Yordanov Borislav 北海道大学, 高等教育推進機構, 助教 (50839199) [辞退]
津田谷 公利 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (60250411)
若狭 恭平 釧路工業高等専門学校, 創造工学科, 講師 (60783404)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 双曲型方程式 / 非線型摂動 / 弱零条件 / 大域挙動 / 漸近解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アインシュタイン方程式をプロトタイプとする強双曲方程式系に対する非線型摂動について、その安定性を弱零条件として特徴付けることである。ラプラス方程式とは異なり、アインシュタイン方程式は時間発展する方程式として表現することができ、数値相対論の分野では3+1形式と呼ばれている。その際、アインシュタイン方程式の共変性に由来するゲージに関する自由度を利用して、時間的座標軸が常に時間的であるような座標系を採用する。この座標系においてローレンツ計量を3+1分解すると、空間的超曲面の外的曲率に関する時間発展方程式系が、時間発展を伴わない拘束条件と共に導かれる。その発展方程式系は主シンボルの性質により、強双曲系と弱双曲系に分類されるが、後者は初期値に関する連続依存性を満たさないため、我々の目的にはそぐわない。実は、上述の操作を素直に実行して得られる方程式系は弱双曲系になってしまうのだが、拘束条件を上手く取り込むことにより強双曲系に書き直すことができ、それはBSSN形式と呼ばれている。前年度は、このアインシュタイン方程式のBSSN形式への理解を深めたが、この方程式系を初期値問題として解くには空間遠方での情報が必要となる。今年度は、この空間遠方での境界条件を定式化し、初期値問題の解析を行った。より具体的には、いわゆるゾンマーフェルド型の境界条件を課すことを考える。概念的には、空間遠方では漸近的に、ミンコフスキー計量に近づき、重力場の影響が緩和され球対称なフロントを持つようになり、時間発展する曲面の法線ベクトルと時間的座標軸の差が零に近づくような状況を考えることになる。音波のような古典場の伝搬を表す単独の波動方程式の解については、散乱理論の枠組みにおいてゾンマーフェルド型の境界条件が用いられることが多く、ここではそのアナロジーを検討することになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、アインシュタイン方程式を初期値問題として扱うための枠組みついての検討を詳細に亘って行ってきた。特に、数値相対論の分野で標準的に用いられているアインシュタイン方程式の3+1形式に着目して研究を進めている。具体的には、時間軸に対応するラプス関数と空間座標に対応するシフトベクトルにより座標系を張り、時間-時間方向・時間-空間方向・空間-空間方向への射影を考えることにより、ハミルトン拘束条件、運動量拘束条件および時間発展する空間的超曲面の外的曲率に関する双曲型の方程式が導かれる。そのような方程式系の中でBSSN形式と呼ばれる方程式系は強双曲系となるため、アダマールの意味での適切性を示すには都合がよい。しかしながら、初期値問題を解くには空間遠方における境界条件を設定する必要がある。アインシュタイン方程式はローレンツ計量に関する方程式なので、空間遠方ではその最も単純な場合であるミンコフスキー計量に漸近すると考えるのは自然である。ミンコフスキー計量における波動方程式の解はフリードランダーの放射場に漸近することが知られているので、BSSN形式の初期値問題に対してゾンマーフェルド型の境界条件を与えることを考えた。但し、この境界条件がアインシュタイン方程式から導かれる拘束条件と両立する必要があるので、その点を検討したところ空間変数に関する微分はゾンマーフェルド型の境界条件を満たさないという困難に直面した。そこで、最大消散条件と呼ばれる境界条件を採用することとした。これにより、意味のあるエネルギー評価を導出することができ、BSSN形式の初期値問題の解析について理解を深めることができた。しかしながら、その過程で方程式系が対称双曲型であることを用いており、一般の強双曲系を扱うための新たな手法の開発の必要性が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、アインシュタイン方程式のBSSN形式における発展方程式は強双曲系となること、及びその境界条件として最大消散条件を採用するのが自然であることを認識できた。そこで、一般の強双曲型方程式に対する非線型摂動を次の研究対象とする。その安定性を弱零条件として特徴付けるために方程式の解の成分をその大域挙動を解析しやすい形に分解することを考える。実際、音波等の伝播を表す波動方程式の場合、それを一階の方程式系に書き換えたときの主要部の固有値分解に附随する従属変数の置き換えにより、速く時間減衰する解の成分と相対的に遅く減衰する成分を見出すことができる。更に、その時間減衰の遅い成分が解の主要部へ及ぼす影響が強いことから、ゆっくり減衰する成分に着目することにより、元の方程式系の本質的な部分を表現する偏微分方程式系ーReduced Systemーを導出することができる。同時に、主要部に附随する解の分解は特性曲面と関係する零枠と呼ばれる解の減衰度を区別するのに都合の良い座標系をも示唆する。その座標系を用いて非線型項を書き直すと、解の時間減衰と密接に関連する非線型項の代数的な構造をあぶりだせる。従って、一般の強双曲型方程式系においても主要部の解析を基礎として適切な零枠を定め、そのReduced Systemを導出することにより弱零条件を定式化することができると考えられる。そこで、まずはBSSN形式において、時間発展に関する方程式の中に内在する代数的な構造を抽出することが、弱零条件の定式化に深く関係するものと予想される。そこで、アインシュタイン方程式のシュバルツシルド解などの典型的な計量を考え、どの様な仕組みによってアインシュタイン方程式の時間発展部分が大域的に可解となるのか、更には、非線型項の中のどの様な代数的構造が大域可解性に寄与しているのかを詳細に検証する。
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