研究課題/領域番号 |
19H01797
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 安人 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (90374743)
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研究分担者 |
内藤 雄基 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10231458)
生駒 典久 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (50728342)
石毛 和弘 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (90272020)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非線形楕円型方程式 / 非線形放物型方程式 / 優臨界 / 臨界 / 劣臨界 / 特異解 |
研究実績の概要 |
(1) 宮本は,研究分担者の内藤と共同で,優臨界方程式に対して原点付近における特異球対称解の漸近展開を(既存の方法より簡単に)導出する方法を発見した.その具体例として,二重指数関数や指数関数をn回合成した関数を非線形項に持つ場合に,特異解の具体的な漸近展開を導出した.優臨界方程式に関するこれまでの先行研究と本研究課題における成果をまとめて,2021年6月28日,29日にオンラインで行われた研究集会「RIMS共同研究(公開型)偏微分方程式の解の幾何的様相」において「優臨界楕円型方程式の球対称解の構造 Part 1, 2」という題目で2コマの講演(招待)を行い,日本語によるサーベイ論文を数理解析研究所講究録にて発表した.次に,非整数回時間微分を含む放物型方程式に対して,通常の放物型方程式の場合の二重臨界に相当する場合に,時間局所解の存在と,小さな初期値に関する時間大域解の存在を証明した.また優臨界に相当する場合には,解が存在しない場合がありうることを証明した. (2) 内藤は,空間3次元以上における Keller-Segel 方程式系に対して,その定常解を用いることにより,Cauchy 問題の解が時間大域的および有限時刻爆発するための条件を求めた.とくに空間次元が 10次元以上であれば,Morrey 空間のノルムによる時間大域的であるための評価が最適であることを示すことができた. (3) 生駒は,Born-Infeld方程式に対し,light segment (光線) を含む弱解を構成し,弱解のグラフの平均曲率の性質(可積分性)を明らかにした. (4) 石毛は,放物型方程式の可解性の研究を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) [優臨界方程式の研究について] 本研究課題の中心的テーマである優臨界方程式の研究について,2020年度に特異球対称解の基本的性質(特異解の存在・一意性・古典解による特異解への収束)を証明した.2021年度の前半に原点付近における特異球対称解の漸近展開について進展があった.2021年度中盤で,それまでに優臨界方程式に関して得られた研究結果をまとめ,研究分担者の内藤雄基氏(広島大学)と共同で論文を執筆した.また,上記の通り,優臨界方程式の球対称解の構造に関して日本語のサーベイ論文を執筆し,数理解析研究所講究録にて発表した.この方程式に関しては,その他には大きな進展はなかった. (2) [臨界方程式の研究について] 下記の「今後の研究の推進方策」の「(2)臨界型方程式の研究について」にあるように,新しい手法によって研究の進展が見込まれる新たなテーマを発見した. (3) [劣臨界方程式の研究について] 劣臨界方程式の研究に関しては進展がなかった. (4) [放物型方程式への応用について] 優臨界楕円型方程式の研究の直接的な応用ではないが,本研究課題の技法に着想を得て,非整数階時間微分を持つ放物型方程式に関して二重臨界に相当する場合に,時間局所解と小さい初期値の時間大域解の存在が示された.また優臨界に相当する場合に解の非存在定理も得られた.これらの結果は既存の理論の適用範囲外で未解決であった.この研究は研究協力者のM. Ghergu氏(アイルランド)と鈴木将満氏(東大数理)との共同研究に基づく. 以上を総合すると,臨界方程式で新たなテーマを発見したことは大きかったが,中心的なテーマである優臨界方程式の研究に関しては大きな進展がなかったことから,「やや遅れている」とした.
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今後の研究の推進方策 |
(1) [優臨界楕円型方程式の研究について]これまでの研究の歴史で,球対称解の構造を解明するためには特異球対称解が重要な役割を担っていることが明らかになっている.さらに,去年度までの本研究課題で,半線形楕円型方程式の特異球対称解の基本的な性質(特異球対称解の存在・特異球対称解の一意性・古典解の特異解への収束・特異解と古典解の交点数)が,(必ずしもスケール不変性を持たない)非常に一般的な非線形項を持つ半線形方程式に対して証明された(さらに,特異非線形項を持つ半線形方程式と準線型方程式の場合にも同種の定理が得られた).本年度は,本研究課題で得られたこれまでの成果を基礎として,優臨界方程式の球対称とは限らない解に対して成り立つ性質の解明を目指す.特に,モース指数に関連する非自明な性質を証明することを目標とする. (2)[臨界楕円型方程式の研究について] 臨界方程式は現在盛んに研究されている分野であり,問題の発見自体が難しい分野である.そのため,本研究課題では今まで臨界方程式を扱っていなかった(申請書には「新たな問題の発見を目指す」としていた).最近になり,臨界方程式の解のモース指数について,新たな手法で研究が進展させられそうだという感触を抱いた.この方向で,臨界方程式の研究の新しい展開を目指す. (3) [劣臨界楕円型方程式の研究について] 2020年度と2021年度の本研究課題では,(変分法を用いず)実解析的手法によって劣臨界不等式(系)の解の存在・非存在の定理(非存在の場合は対応する楕円型方程式(系)のLiouville型定理)を得た.今年度は変分的手法に戻り,今まで扱えなかった劣臨界方程式に対して解の存在・非存在に関する定理の証明を目指す.
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