当該年度には、まず研究代表者を中心として、本研究で実現を目指す実用的効率性をもつ完全準同型暗号の実現に向けて、研究代表者がこれまでに考案した群論に基づく新構成原理について再度整理を行った。特に、同原理におけるビット演算の群論的埋め込み先の候補について理論考察および計算機実験による探索を行い、従来の最小の埋め込み先であった5次対称群S_5よりもさらに小さな5次交代群A_5への埋め込みを見出すとともに、このA_5が理論上最小の埋め込み先であることを証明した(査読付国際論文誌へ論文投稿中)。 次に、昨年度に研究を行った格子基底簡約アルゴリズムの性能評価について、アルゴリズム中の主要ループ箇所の所要回数に関する評価結果をさらに精密化する改良を行った。 さらに、同構成原理の適用先候補であるloop(特にMoufang loop)の性質についての文献調査・考察を行うとともに、被覆写像の構成アイデアの一つであるTietze変換やstring rewriting systemに基づく構成法に関連してそれらの数学的対象の性質についての文献調査・考察を行った。こうした考察により、実用的効率性をもつ完全準同型暗号の実現に向けた今後の研究の方向性を明確化することができた。 また、研究分担者を中心として、望月新一氏による宇宙際Teichm\"uller理論の拡張と発展を行った。より詳しくは、楕円曲線のモジュライにおける無限遠点での同理論と見ることが出来る発展的理論に関する議論を同氏と行った。
|