研究課題/領域番号 |
19H01805
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
李 聖林 京都大学, 高等研究院, 教授 (50620069)
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研究分担者 |
木村 暁 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 教授 (10365447)
栄 伸一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30201362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞の配列 / パターン形成 |
研究実績の概要 |
非対称細胞分裂は初期発生において細胞の多様化を生み出すもっとも重要な仕組みの一つである。個々の細胞は適切なタイミングで細胞分裂を行い、それぞれの細胞の位置を決定していく。そして細胞同士の位置関係によって隣の細胞とのコミュニケーションを通じてそれぞれの運命を決定していく。本研究では非対称分裂過程において分子の動態のみに注目してきた従来の局所的なアプローチから離れ、細胞の高次元の形と細胞分裂の動的ダイナミクスおよび細胞間の相互作用(位置関係)を考慮した上で分子の動態を時空 間的に考察できる大域的数理モデリングの開発に挑戦することが目的である。その達成のために、まず、細胞の相対的位置関係がどう決まるのかについて考察を行った。 非対称細胞分裂を起こす線虫の初期胚では硬い卵の殻が存在し、その中で細胞が分裂くりかえす。非対称細胞分裂を生まれた娘細胞はそれぞれ機能が異なる。さらに、それぞれが相互作用を行いながら次の非対称細胞分裂を準備するため、すべての細胞が的確な時間に的確な配置を行う必要がある。しかし、どうやって線虫の初 期胚がそのような複雑なダイナミクスをロバストに制御しているかについては未だに分かってないことが多い。本研究ではまず、それを明らかにするために、細 胞分裂と細胞の動きを表すことができるMulti-Phasefield法を用いたモデリングの構築を行い、どのようなファクターが細胞の配置決定に重要に関わるのかについて考察を行った。その結果、線虫の初期胚の細胞分裂と細胞の位置決定の問題について、細胞殻内にある空き空間が細胞の位置決定に重要に関わることを発見した。 そのほかにも、細胞極性が持つパターン形成の数学的普遍性の発掘につながる解析研究が活発に行われ、多数の専門誌に出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では非対称細胞分裂の全体的枠組みを捉えられる大域的数理モデルを構築することを重要な目的としている。そのため、単細胞だけではなく、複数の細胞の形を詳細記述し、細胞同士の相互作用を含む数理モデルの構築が必要不可欠である。その数理モデルの基本型となる数理モデルの構築に成功し、さらに、実際の細胞の形をPhase-field法に融合する数理的手法を開発した。また細胞の配列の仕組みを考察した実験系との融合研究成果はDevelopmentという国際専門誌に出版される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今回開発された数理的手法を他の多細胞システムのパターン形成研究にも応用する発展的研究を進めていく。また、細胞の幾何学的性質に着目した研究をさらに発展させていく。 分担者の研究者らと協同し、細胞極性形成とパターン形成における数学的構造解明や新たな生物知見の発掘につなげるための議論を加速していく。
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