研究課題/領域番号 |
19H01808
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Lieb-Schultz-Mattis定理 / 量子ダイナミクス / 多体分極 / 分極演算子 / 電気伝導度 / 量子異常 / 量子臨界現象 |
研究実績の概要 |
まず、多体系における分極演算子の意味を再検討し量子ホール効果に適用した論文と、分極演算子と深く関係するLieb-Schultz-Mattis定理と場の理論における量子異常の関係をSU(N)対称性を持つ1+1次元系について明らかにした論文を改訂した。これら論文の初期の版は本研究開始前に投稿されていたが、議論を補強した改訂版を、査読を経てそれぞれAnnals of Physics誌およびPhysical Review Letters誌に出版した。これらの論文はRestaらによる分極演算子と、Lieb-Schultz-Mattis定理にそれぞれ現代的な意味を与えたものであり、また本研究の基礎としても重要である。 本年度の新しい研究として、まずらせん型の境界条件を用いたLieb-Schultz-Mattis定理の新たな導出を行った。この方法は、従来の磁束挿入に基づく議論の持つ有限系のサイズに関する人工的な制限を取り除くだけでなく、2+1次元以上の系のLieb-Schultz-Mattis定理を1+1次元の場の理論が持つ量子異常に自然に結びつけるものである。 さらに、分極演算子が瞬間的な磁束挿入によって生じるベクトルポテンシャルを消去する「大きなゲージ変換」を表すことに着目し、瞬間的な磁束挿入に伴うエネルギー増加を評価することによって、任意の次数の非線形伝導度に関する周波数和則が導出できることを示した。 これに加え、量子ダイナミクスに関する基礎的な研究として、「時間結晶」の平衡状態における不在を示した定理の証明を精密化し、またGibbs状態以外の定常状態などへの拡張を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分極演算子としての意味も持つ「大きなゲージ変換」の、新たな複数の応用を見出すことができた。特に、らせん型の境界条件に基づくLieb-Schultz-Mattis定理の導出は既にFuruyaとHorinouchiにより拡張され、チェッカーボード型格子について既知のものよりも強いLieb-Schultz-Mattis型定理が導出されている。これは、我々の開発した定式化が新たな観点をもたらすに留まらず、結果としても新しいものを導くことを示している。 さらに、我々の論文で議論した場の理論の量子異常(混合アノマリー)に基づくLieb-Schultz-Mattis定理の導出は物性物理学のみならず素粒子理論でも注目されており、我々のPRL論文が2020年に既に13件(合計26件、Google Scholarによる)引用されるなど、境界領域での研究の発展に貢献している。 また、断熱的な磁束挿入と瞬間的な磁束挿入の違いに注目することで、周波数和則についても新たな観点を導入することができた。
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今後の研究の推進方策 |
磁束挿入に伴うダイナミクスに関する理解が、今年度大きく進展した。これを、当初の目標である分極振幅のスケーリングに応用して行く予定である。
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