本研究の動機となった、電気分極に関するResta公式は広く応用されているが、分極演算子が保存量ではないため、高次元ではギャップを持つ相においても期待値が熱力学的極限で消失するという問題がある。この場合にも、位相部分を取り出したResta公式は熱力学的極限において正しく電気分極をあらわす可能性はあるが、これを確かめるのは難しい。さらに、Resta公式を多重極子分極に応用する提案がなされてきたが、Ono-Trifunovic-Watanabeが指摘したように、原点の取り方に対する非物理的な依存性などより深刻な問題がある。 本研究では、Resta公式は瞬間的なAharonov-Bohm(AB)磁束挿入、あるいは瞬間的な電場印加に対する系の応答をあらわすという観点から、Resta公式の改良を行った。すなわち、半量子磁束分のAB磁束に対応する背景ゲージ場のもとでAharonov-Bohm磁束の瞬間的挿入および空間反転を行うと、この操作はハミルトニアンと可換なユニタリ演算子で表現できる。従って、たとえば基底状態はこの演算子の固有値で特徴づけられる。しかし、このときのユニタリ演算子は空間反転を含んでおり、電気分極そのものを表すものではない。そこで、(背景ゲージ場がない場合の)空間反転演算子の固有値で上記固有値を除算すれば、系の電気分極を量子数によって表現できる。これにより、Resta公式の持つさまざまな問題を解決できる。さらに、多重極子分極にこの定式化を拡張することで、多重極子分極に対する演算子公式の問題点を部分的に解決することができた。 この他にも、完全伝導を特徴づけるドルーデ重みについて、熱力学的極限と断熱極限の順序の取り方により異なる値が得られ、バルクの完全伝導を特徴づけるには熱力学的極限を先に取り断熱極限をその後で取る必要があることを不純物模型を用いて明確にした。
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