研究課題/領域番号 |
19H01809
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川島 直輝 東京大学, 物性研究所, 教授 (30242093)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 統計力学 / 計算物理学 / 量子スピン系 / テンソルネットワーク |
研究実績の概要 |
(1)スピン1のキタエフスピン液体に対してテンソルネットワーク法による変分計算を行い、これまでスピン液体状態の存在が示唆されながらその性質が未解明だった量子相について、トポロジカルエンタングルメントエントロピーを計算することによって、この相が、Z2ゲージ構造と可換な準粒子励起を持つトポロジカルスピン液体であることを見出した。(2)スピン1のハイゼンベルク鎖に対して、変分パラメータが少ないにも関わらず、非常に精度の高い基底状態エネルギーが得られる変分波動関数をテンソルネットワークの一種であるMPS状態を利用して構成した。(3)キタエフスピン液体が実現する可能性のある現実の物質として、α-RuCl3が提案されているが、この物質の量子スピンモデル系に対して、磁場中の相図をテンソルネットワーク法によって調べた。この結果、先行研究ですでに示唆されていたカイラルスピン液体を含む多数の相が見いだされた。カイラススピン液体相については、先行研究よりも狭い領域でしか実現していないことも分かった。(4)HOTRG法はテンソルネットワーク表現に基づく実空間繰り込み法として標準的に利用される方法だが、その精度を上げるには途中で用いられる射影演算子の最適化において大局的な環境の影響を取り入れることが重要である。しかし、計算コストが重いことが問題であった。我々は、角転送行列の方法を応用することによって、この計算コストを大幅に削減することに成功した。(5)テンソルネットワークの物性理論の応用において直面するテンソルのリング分解に対して高効率な方法を考案した。(6)1次元はしご型量子スピン系(JQモデル)において、テンソルネットワーク法に基づいて、脱閉じ込め転移の研究を行った。4つの相が一点で交わる相図が得られた。(7)カゴメ反強磁性体であるカドミウムカペラサイトに対して熱的量子ホール効果の計算を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)α-RuCl3のモデル量子スピンモデル系に対して、磁場中の相図をテンソルネットワーク法によって相図を解明し、先行研究の知見を修正しただけでなく、更に新しくトポロジカルに非自明な構造を持つことが示唆される量子液体相を発見した。(2)論文としては2021年度になってから公表されたためリストには含めていないが、2020年度にテンソルネットワーク表現に基づく新しい繰り込み群の一般論を開発することができ、3次元への応用への具体的な道筋が付くと同時に、3次元系への応用も開始した。(3)当初の計画には含まれていなかったが、1次元系についても非常に精度の高い計算を行うことができた。このため、1次元の量子臨界現象の議論も可能になり、JQはしごモデルにおいて脱閉じ込め転移の様相を明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)高階の情報量の大きいテンソルを多数の3階テンソルからなる環状ネットワークによって高効率に表現するためのアルゴリズムを提案に関して,従来物性理論への応用で知られている、loop-TNR や、GILT などの方法を応用することで、実データの解析においても効率化が計れないかを検討する。(2)テンソルネットワーク表現に基づく繰り込み群の一般論の開発に成功し2次元でベンチマーク計算を行い、すでに論文を公表しているが、これを3次元系にも応用することによって、あたらしい、スケーリング次元のスペクトル構造など固定点テンソルの性質を明らかにする。(3)これまでの研究からAKLT状態、ハルデーン状態、キタエフ量子液体、など複数の興味ある量子液体状態が、古典ループガスモデルに帰着することが分かってきた。そこで、一般に古典ループガスに帰着される量子状態の共通性や普遍性について考察を深め、同時に古典ループガス問題を系統的に再考することで、従来の量子スピン液体の理解に新しい見方を導入し、同時に、新しいタイプの量子状態の提案につなげたい。
|