研究課題/領域番号 |
19H01815
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金田 文寛 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (80822478)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光子 / 量子光学 / 量子情報 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、単一もしくは少数の光子源のみから発生する光子を繰り返し利用・操作することで、高資源効率及び高精度の光量子状態 発生・操作,および量子計算を実現することである。 本年度は光子の繰り返し操作機構の構成要素となる光子源励起用のレーザーの選定、導入、およびその性能評価と、リング型メモリの開発を行った。レーザーの性能としては平均パワー、パルス幅と繰り返し周波数の安定性が重要である。導入したレーザーの平均パワーとパルス幅は要求を満たしていたが、繰り返し周波数の位相雑音を観測したところ、低周波数の揺らぎが存在することが確認され、今後1 kHz程度までの周波数の安定化を行う必要があることがわかった。リング型メモリにおいては関しては導入した光スイッチであるポッケルスセルの評価を行った。ポッケルスセルの透過率は十分であったものの、わずかな空間複屈折や長時間稼働による熱的な屈折率変化による消光比の低下が見られた。そこで、空間複屈折に対しては光ファイバーによる空間フィルタリングによってわずかな空間複屈折を起こした光を排除することで、自由空間で測定する消光比を2桁以上回る数値(>300000:1)を得ることができた。また、ポッケルスセルに付加する水冷機構を新たに設計した。 また、本研究で提案された時間多重化方式を用いた単一光子源がイリノイ大学との共同研究にて開発され、世界最高の単一光子発生確率を達成した。この結果は本研究の多光子量子計算が有用であることを示す重要なマイルストーンである。そして、量子光源の開発も継続的に行っており、その中で光子発生の逆過程を用いた古典論的な分光法によって光子発生源を高速かつ高精度に評価する方法を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では2台の量子メモリを開発予定であったが、ポッケルスセルの消光比の問題により現在もまだ開発を継続中である。しかし、その消光比の問題の解決のために発案された光ファイバーによる空間フィルタリングは、ポッケルスセルの仕様値の100倍以上高い消光比を達成し、高精度光スイッチとして使用可能となったことは大きな成果といえる。したがって、研究提案において予想していた繰り返し操作の精度は全て上方修正されることになった。 また、新たに見出した光子源高速高精度分光法によって、光子発生に使用する非線形光学結晶の高精度な評価と開発が可能となることが期待され、次年度に予定していた光子源開発の期間の短縮が期待される。 したがって、当初の予定が達成されていない部分もあったが、次年度以降の研究に大きな進展をもたらす基礎研究の成果が上がったため、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き光子源と量子メモリ開発に取り組み、その後組み合わせることで、光子の繰り返し発生や増幅を実行する光学系を構築する。光子源は新たに設計した非線形光学結晶のスペクトル評価と集光効率の最適化を行う。量子メモリの開発では、まずポッケルスセルの水冷機構を構築し、その後メモリ用の光学リングを構築する。また、繰り返し操作の高精度な同期のため、光子源の励起用レーザーの安定化を行う。
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