本研究の目的は、単一もしくは少数の光子源のみから発生する光子を繰り返し利用・操作することで、高資源効率及び高精度の光量子状態 発生・操作,および量子計算を実現することである。 まず、前年度の課題であった光子発生源の励起用レーザーの繰り返し周波数安定化を行い、自発パラメトリック下方変換光子の発生時間間隔の揺らぎが光子のパルス幅の1/10程度まで低減された。これは光子の時間モードの同期と今後の量子情報実験の遂行に十分な安定度である。 また、前年度に引き続き伝令付き単一光子源の開発を行い、結晶から得られる純粋度のさらなる最適化と上限値の解析を実施した。その結果、最適な周波数フィルターの挿入により、ほぼ無損失に99%以上の純粋度が得られるということが示され、当初の期待以上の成果となった。この技術により、高い干渉性をもつ単一光子や光子数状態の高効率発生が可能となることが示された。しかし、作製した結晶の表面が損傷していることも判明したため、損失改善のためには表面研磨と反射防止コーティングが新たに必要となり、本年度期間内でのさらなる光源開発が実施できなかった。 一方で、光子の保持や繰り返し操作を行うリング型量子メモリ技術でも大きな進展があり、リング型メモリを2段型とすることで、単一のメモリの保持時間を4倍以上(9μs)延長することに成功した。これは複数の時間モードに存在する多数光子の保持も可能にするものであり、当初想定していた量子計算におけるモード数、計算ステップ数を4倍以上伸ばせることを意味する。 したがって、本年度では、光子を用いた量子計算の実証には至らなかったものの、その実現に向けた複数の重要技術の開発に成功した。
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