研究課題/領域番号 |
19H01817
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 隆佑 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50615309)
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研究分担者 |
秋山 英文 東京大学, 物性研究所, 教授 (40251491)
中辻 知 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70362431)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 反強磁性 / ワイル半金属 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続いて高強度テラヘルツパルスによるワイル反強磁性の高速制御に向けた研究を行った。 これまで開発したテラヘルツ精密偏光回転計測による反強磁性磁化の高速検出技術を用いて、ワイル反強磁性金属Mn3Sn薄膜の反強磁性スピン秩序に由来する巨大異常ホール効果を時間分解観測した。フェムト秒光パルスで強く励起することで異常ホール伝導度の時間変化を調べ、光励起直後約1ピコ秒の間に異常ホール伝導度が20%ほど急激に減少し、その後数10ピコ秒かけて緩やかに元の状態へ戻るダイナミクスを観測した。Mn3Snのバンド構造と状態密度を考慮した計算から、この実験結果は、Mn3Snの異常ホール効果の起源が電子占有状態のベリー曲率の積分に由来する内因的機構であり電子温度の急激な上昇により電子分布関数の変化が生じたと考えることでよく説明できることがわかった。 また反強磁性磁化を制御する上で、テラヘルツ磁場成分によるゼーマントルクとは別に、テラヘルツ電場成分によって誘起される高速電流によるスピン軌道トルクを利用する手法を考案しており、今後の実験実証に向けて詳細を検討中である。この実験のためパルス面傾斜法による高強度テラヘルツパルス発生システムを改良し、1THz帯で電場尖頭値0.7MV/cmの高強度パルス生成を達成した。さらにこの高強度テラヘルツパルスを用いて、空間反転対称性の破れたワイル半金属WTe2の制御についても実験を行い、テラヘルツ非線形応答を調べることで、微少な剥片からの高効率な第二高調波発生を室温で観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ワイル反強磁性磁化のテラヘルツ高速制御に向けて、テラヘルツ異常ホール効果の観測に続き、異常ホール伝導度の光励起後の時間分解観測を実現し、磁化ダイナミクスについて知見を得た。さらに反強磁性磁化を制御する上で、当初計画していたテラヘルツ磁場成分を用いるよりもよりシンプルかつ試料の損傷を避ける手法として、テラヘルツ電場成分によって誘起される高速電流によるスピン軌道トルクを利用する手法を考案し、今後の実現に向けて必要部品を揃えて準備を進めている。さらに空間反転対称性の破れたワイル半金属のテラヘルツ強電場制御についても実験が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
ワイル磁性体Mn3Snの反強磁性磁化を高速に制御することを最終的な目標として、テラヘルツ電場成分により誘起される電流を用いる手法に取り組む。反強磁性金属Mn3Snと非磁性金属のヘテロ膜に対してDC電流を流すことでスピン軌道トルクを利用して反強磁性磁化を制御できることが可能であり、これをテラヘルツ周波数帯に拡張する実験を推進する。電磁石による0.1Tの定常磁場下において、モノサイクルテラヘルツパルスによるポンプ電流、可視フェムト秒パルスによる光カー回転をプローブ、マイクロ秒電流パルスによる磁化リセットパルスを組み込んだ磁場中ポンププローブ光学系を構築し、反強磁性磁化の高速ダイナミクスを観測しながら高速磁化反転の実現を目指す。
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