研究課題
本研究では、結晶方位のツイスト角(θ)を制御したファンデルワールストンネル接合素子を舞台として、複合原子層のバンド構造をトンネル伝導測定により解明することを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き単層グラフェン/hBN/三層グラフェントンネル素子における量子輸送特性測定を進めるとともに、同様のトンネル接合構造を用いてTwist二層グラフェン・遷移金属ダイカルコゲナイド系二次元結晶(WSe2)のバンド構造解明に向けた研究を進めた。【三層グラフェン】グラフェン中の伝導電子が運動量を保存したまま三層グラフェンに伝搬する「共鳴トンネル」に起因する微分抵抗の極大を観測した。昨年度に導入した超伝導磁石により磁場を印加しつつ、微分抵抗のゲート電圧・ソースドレイン電圧依存性を解析することにより、三層グラフェンのバンド構造・ランダウ準位間隔を決定した。【Twist二層グラフェン】スタンプ法を用いて、Twist二層グラフェン/hBN/グラフェンヘテロ接合素子を作製した。T=1.7Kにおいて輸送特性を行ったところ、Twist二層グラフェンのフェルミエネルギーがモアレ超格子によるサブバンドに一致した点で微分コンダクタンスが抑制された。Twist二層グラフェンのサブバンドをトンネル輸送特性測定により直接観測した初めての例である。現在、磁場・温度を変化させ、ランダウ準位構造の解明・超伝導ギャップの観測に向け測定を進めている。【遷移金属ダイカルコゲナイド】MoS2/hBN/数層WSe2トンネル接合素子において、数層WSe2中のサブバンドに起因する共鳴トンネルを観測した。上記に加えて、素子作製技術の向上にも取り組み、hBN中に封止された複数の単層グラフェンに対して独立してコンタクト電極を取り付ける技術を確立した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究計画で掲げた超伝導磁石の調達を行い、Twist角を制御した単層グラフェン/hBN/二層グラフェントンネル接合素子において、ランダウ準位構造を微分コンダクタンス測定により観測することに成功した。さらに、研究計画で掲げていたTwist二層グラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドを含むトンネル接合素子の作製に成功し、微分コンダクタンス測定によりバンド構造の決定を進めることができた。新型コロナウイルスの影響により実験が行えない期間が3ヶ月間生じたが、超伝導磁石の導入による研究環境の整備を前倒しして実現していたことにより、研究計画に大きな遅が生じることはなかった。以上から、本研究計画は概ね順調に進展していると考えている。
今後は単層・三層グラフェン素子に磁場を印加することでランダウ準位を形成させ、ランダウ準位間のトンネル伝導を観測する。さらに、Twist二層グラフェン/遷移金属ダイカルコゲナイド系原子層におけるトンネル輸送へと研究を展開し、トンネル伝導測定による原子層のバンド構造解明を進める。また、素子作製技術の改善も引き続き行う。具体的には、トンネル接合構造への有機不純物取込を抑えるために、結晶片の端から徐々に原子層を貼り合わせる装置を開発し、高品質トンネル接合素子の実現を目指す。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件)
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