今年度は、電子トラップ量子系の実現を目指し、高Q値マイクロ波共振器を用いた電子の捕獲、その振動状態の電気検出実験と極低温における単一電子検出技術の開発に成功した。 2022年に他のチームより報告された電子トラップ実験では、捕獲した電子を放出し、電子検出器に入射する手法を用いていたため、検出されたときにはすでにトラップ内で電子はなく、その状態を制御する実験は困難であった。そこで、本研究では浮揚電子をトラップから取り出すことなく、その振動状態を直接電気信号として観測する技術の開発に取り組んだ。大きな双極子場を持つ高Q値の読み出し共振器を利用し、捕獲中の電子からの電気信号の検出に成功した。トラップの保持時間は3秒程度であり、その間に電子は読み出し共振器にマイクロ波光子を放出することで冷却される。 これら電子トラップ技術を極低温で実装するため、まずは電子の破壊測定を極低温で実装する研究を行った。超伝導細線からなる電気回路に電子を入射することで、ホットスポットと呼ばれる部分的に超伝導体が破壊される領域が発生し、バイアス電流の印加によってホットスポットが成長して常伝導化し、超伝導回路に抵抗が生じる。この抵抗を検出することで高効率に低温環境下で電子の検出が可能になる。室温で用いられる電子検出器に比べて低加熱・高速であり、より低エネルギーの電子を検出可能であることがわかった。 これらのトラップ内電子の測定技術と極低温での電子検出技術により、極低温における電子トラップへの道が拓けたと言える。また、浮揚した電子を冷やすための技術として、超伝導量子回路やイオントラップと電子トラップを共存させたハイブリッド量子系を提案した。これらの間の相互作用を解析し、協働冷却と呼ばれる方法で電子を冷却可能であることが分かった。
|