研究課題/領域番号 |
19H01822
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相川 清隆 東京工業大学, 理学院, 准教授 (10759450)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / オプトメカニクス / 量子光学 |
研究実績の概要 |
新たに製作した真空槽および光学系・電子回路系を用いて、ナノ粒子を高真空環境において観測・冷却する研究に取り組んだ。光学系を最適化すると共に、低ノイズな光検出器を用いることで、室温における未冷却の状態においてノイズフロアに対して80dB程度の充分に大きな信号が得られることを確認した。この状態では、基底状態付近までの冷却が可能であると予想され、実際に冷却の実験を行った結果、光の進行方向と垂直な方向には、ほぼ想定された程度の温度である50 \muK(占有数にして10程度)までの冷却を実現した。 一方、光格子が形成される光の進行方向には、レーザーの種光源によって数mK~数100mK程度と非常に高い温度までしか冷却できないことが判明した。この問題は、レーザーの位相ノイズによって光格子方向にのみナノ粒子の運動が加熱されることが原因と考えられたことから、位相ノイズを低減できるよう、レーザーを高フィネス光共振器に安定化する光学系を新たに構築した。この低位相ノイズレーザーを用いて冷却実験を行った結果、光格子方向の運動をほぼ理論的に予想される温度(~40 \muK)まで冷却することに成功した。この実験において、レーザーの位相ノイズを変化させてナノ粒子の運動の加熱レートを調べたところ、加熱レートはレーザーの位相ノイズのうち、特にナノ粒子の振動周波数付近のノイズに強く影響されていることがわかった。これらの結果に基づき、レーザーの位相ノイズとナノ粒子の運動の加熱レートを関連づける理論的モデルを構築したところ、実験データをよく説明できることが明らかとなった。光格子方向が最も振動周波数が高く、それ故に基底状態の温度も高いことから、今回得られた温度は光格子方向に対しては占有数が3程度に相当しており、基底状態(占有数1未満の状態)に近い領域へと到達できたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光格子方向の運動の温度が想定よりはるかに高い温度までしか冷却できない問題が明らかとなり、その理由を探す中でレーザーの位相ノイズの影響について調べたり、レーザーの位相ノイズ低減に向けて装置を改良したりするために相当の時間・予算を要したものの、最も振動周波数が高い光格子方向に焦点を絞って研究を進めた結果、概ね想定していたスケジュールで基底状態付近への冷却を実現することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに観測光学系・電子回路系の改良を進めて、ナノ粒子の重心運動を基底状態へと冷却する技術を確立する予定である。その上で、重心運動の量子的振る舞いを明らかにする研究に取り組む。
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