研究課題/領域番号 |
19H01826
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
金崎 順一 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80204535)
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研究分担者 |
東 純平 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 准教授 (40372768)
深津 晋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60199164)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 半導体 / キャリア動力学 / 正孔 / 2光子光電子分光 / シリコン |
研究実績の概要 |
令和2年度においては、時間分解2光子光電子分光及び差分分光の手法を用い、1)シリコン価電子帯に高密度正孔を注入した際に発生する、価電子バンド構造の超高速変化に関する研究を中心に推進した。 1)ポンプ光励起(1.49 eV)によりシリコン試料の伝導帯に励起電子を、価電子帯に正孔を高密度に注入し、プローブ光(5.96eV)により放出される光電子分布を時間・角度分解測定した。測定に用いたプローブ光光子エネルギーの場合、バルク価電子帯から真空準位以上にある自由電子バンド状態への共鳴遷移が発生し、価電子帯の分散を明瞭に観測することが可能である。上述した励起条件により、正孔注入による価電子バンド構造の変化を時間分解的に観察した。測定の結果、正孔を注入すると同時に、価電子バンドからの光電子放出強度の顕著な減少と共に、放出角に依存する光電子ピークエネルギーのシフト及びピークエネルギー幅の増大が観測された。光電子スペクトルが変化する時間領域は、光注入電子・正孔系のエネルギー緩和過程の時間スケールとほぼ一致する。従って、価電子バンド構造の変化は、励起直後に形成される非平衡キャリア分布から、バンド端近傍での平衡分布形成にいたる、エネルギー・運動量空間での電子・正孔系の密度分布変化によるものと考えられる。 キャリア注入による価電子帯の超高速変化の振る舞いを明確にするため、いくつかの異なるエネルギー位置での光電子ピーク幅と励起光強度との相関を測定した。その結果、エネルギーに依存せず、ピーク幅は励起光強度の3分の1乗に比例して増大する事、また、価電子帯上端からのエネルギー値が大きい領域ではその比例係数が小さくなる傾向が観察された。これらの結果は、光励起により注入されたキャリア間散乱過程が、観測される価電子バンドの変化に強く関与していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、測定した2光子光電子差分分光イメージを解析し、価電子正孔系の密度分布変化に関する知見を得た。その研究過程において、光励起により正孔注入すると、励起後数ピコ秒のごく短い時間領域内において、価電子バンド構造が大きく変化することが判明した。次年度は、この現象を中心に実験研究を推進し、シリコン表面近傍における非平衡価電子正孔系密度分布の超高速緩和現象ばかりでなく、その緩和過程において、高密度励起キャリア系が価電子バンド内の電子状態に及ぼす効果を明確にする可能性を切り拓いた。次年度に得られた実験結果について共同研究者と情報共有し、励起キャリア系の緩和に伴う価電子バンド構造の変化を明らかにするための研究計画を協議しており、今後の実験研究の準備も順調に進んでいる。 ゲルマニウムにおける励起電子系の緩和過程については、2光子光電子分光による実験結果をまとめ、第一原理計算による結果との比較検討を行っている。現在、学術論文を執筆中にある。また、シリコンで用いた時間分解光電子差分分光の手法を適用し、ゲルマニウムの価電子正孔系の超高速緩和現象に関する測定、更に、再結合発光の測定も加え、光励起による電子・正孔対生成から、運動量・エネルギー緩和をへて再結合に至るまでの電子・正孔系の動的振る舞いの全体像を解明する為の実験研究の準備も次年度内にほぼ完了した。 上述したように、当初想定していない結果を追求するため、計画の修正を行いつつ研究を進めている。これにより、価電子正孔系の緩和現象に関するより広い理解が得られることが期待され、研究はおおむね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に得られた価電子バンド構造変化の機構を更に明確にするため、正孔注入領域および注入正孔密度との相関を明確にする。その為、ポンプ光の波長を大きく変化させ、キャリア注入による価電子バンド構造の変化を測定する。これまで、ポンプ光エネルギーを1.49eVに固定してきたが、再生増幅したフェムト秒レーザーをオプティカルパラメトリック増幅法を用いて波長可変した光を励起光として用いる。現在、代表者及び共同研究者の研究機関において、波長可変増幅システムの調整を進めている。光励起システムの最適化を完了した後、1.49, 1.75, 2.0 eVの3つの異なる励起光波長による2光子光電子分光測定を、5.96eVプローブ光を用いて推進する。3つの励起条件を用いて得られる、2光子光電子差分分光イメージの解析を進め、価電子バンド内における注入正孔のエネルギー・運動量空間内での緩和過程を実時間追跡する。これらの測定より、価電子正孔系の密度分布変化と価電子バンド構造変化との相関を明確にし、現象の解明を進める。更に、実験研究により得られた価電子正孔系の動力学の結果を、海外研究機関の研究協力者(Dr.Sjakste)と情報共有し、第一原理計算による理論的考察も含めて検討することにより、シリコン表面近傍における非平衡価電子正孔系の超高速緩和過程を支配する素過程を解明する。 シリコンと同様に、ゲルマニウムのバルク価電子バンド内における光注入正孔のエネルギー・運動量緩和の過程と価電子バンド構造の超高速変化に関する研究を推進する。シリコンの結果と比較検討し、IV族半導体における正孔緩和現象の一般性や物質に依存する特徴等を理解する。更に、ゲルマニウムの励起電子系と正孔系の再結合発光測定を推進し、運動量・エネルギー緩和をへて再結合に至るまでの励起電子・正孔系の動的振る舞いの全体像を解明する為の研究を展開する。
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