研究課題/領域番号 |
19H01829
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
遠山 貴巳 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (70237056)
|
研究分担者 |
曽田 繁利 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 技師 (60466414)
兼下 英司 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (60548212)
筒井 健二 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員 (80291011)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 時間分解共鳴非弾性X線散乱 / 相関電子系 / 数値計算 |
研究実績の概要 |
共鳴非弾性X線散乱(RIXS) は運動量とエネルギーの両方を分解して電荷・スピン・軌道励起の全体像を明らかにすることができる。そのRIXSに時間分解機能を付加しようという実験が、自由電子レーザーの発展と歩調を合わせて世界各地で始まっている。本研究では、今後大きな発展が期待される相関電子系に対する時間分解RIXSに着目し、実験に先立って理論からの提案を行うことを目的としている。世界的な研究の流れに対応する形で、2019年度に着手した二次元モット絶縁体に対するRIXSスペクトルの研究を継続した。とりわけ、RIXSで観測されるスピン励起に着目し、ポンプ光照射後の二次元拡張ハバード模型の動的スピン構造因子と静的スピン造因子の時間変化について厳密対角化法による計算を行った。その結果、静的スピン構造因子において、ポンプ光の入射方向に平行な運動量と垂直な運動量で強度の時間変化が逆位相になることが明らかとなった。その起源として、ポンプ光照射中の振動電場によるフロッケ的な状態の生成とともに、2マグノン過程に現れるB1g状態と光励起状態が結合してそのエネルギーに対応する振動が生じていることを突き止めた。また、ポンプ光照射後の動的電荷構造因子の計算も行い、それらの結果をまとめることで、時間分解RIXSを用いた二次元モット絶縁体に対する新たな実験提案としてPhysical Revew Letters に出版した。そのほか、時間依存密度行列繰り込み群法によるポンプ光照射後の動的・静的スピン構造因子の大規模計算に着手した。また、遅れていた一次元モット絶縁体の時間分解RIXSに対する研究にも着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、一次元モット絶縁体の時間分解RIXSに対する厳密対角化による研究を行うとしていたが、国際的な研究の流れから、最初に二次元モット絶縁体に対する計算を前倒しで行うこととした。二次元モット絶縁体に対する重要な成果は2020年度の詳細な計算よって得ることができた。遅れていた一次元モット絶縁体の時間分解RIXSに関する研究は2020年度から着手することができた。また、もう一つの主題として、鉄系超伝導物質のような多軌道電子系における各種動的相関関数のポンプ光照射後の時間変化を計算するための手法を確立することを挙げていた。相互作用を平均場近似で取り扱った場合の種動的相関関数の計算の進捗は予定よりも遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究進捗に鑑み、今後は以下の3点について精力的に取り組む。 (1) 二次元系のモット絶縁体の時間分解RIXS:RIXSがスピン励起を観測するよい手法であることから、ポンプ光照射後の動的スピン構造因子の計算を進めてきたが、今後もこの重要な課題を継続して行う。特に、時間依存密度行列繰り込み群法による動的・静的スピン相関関数の計算と厳密対角化の計算を組み合わせながら、ポンプ光照射後にマグノン励起よりも低エネルギー側に現れる新規状態の解明を進めれる。これは、最近報告された二次元モット絶縁体の2マグノンラマン散乱のポンプ光照射によるスペクトル変化とも深く関連している。 (2) 一次元および梯子型モット絶縁体の時間分解RIXS:一次元モット絶縁体および梯子型モット絶縁体にポンプ光を照射したときの動的・静的スピン構造因子の時間変化を厳密対角化法や時間依存密度行列繰り込み群で調べる。さらに、それらにキャリアをドープしたときの光誘起動的・静的スピン構造因子についても検討を始める。 (3) 多軌道系の時間分解RIXS:これまで進めてきた多軌道電子系における時間依存波導関数の計算からその波動関数を用いて各種動的相関関数のポンプ光照射後の時間変化を計算するための手法を確立・応用する。
|