研究課題
本研究では、全反射高速陽電子線回折(TRHEPD)法を用いて表面超構造を決定し、角度分解光電子分光(ARPES)測定を同一表面にて行うことで、新奇低次元電子物性発現の舞台である表面近傍の電子状態を徹底的に解明することを目的としている。2019年度は上記目的達成のために超高真空下で極薄膜試料や超構造を作成・評価する超高真空内試料表面作製装置の設計を行った。さらに高エネルギー加速器研究機構(KEK)-低速陽電子実験施設では酸化物試料表面に最適化された試料準備槽の作成とアナターゼ型酸化チタン(a-TiO2)表面の(4x1)表面超構造のTRHEPD測定を行った。具体的には次の研究を実施した。1)本研究で用いる超高真空内試料表面作製装置は低温下でも試料の予備評価が可能となるよう設計を行った。設計に関しては、試料ステージや冷却機構等の詳細まで設計を進めた。2)KEK-低速陽電子実験施設では酸化物表面の試料表面清浄化するための準備槽を整備した。本準備槽を用いることで酸素雰囲気下での試料の高温加熱が可能となり、酸化物試料の酸素欠陥生成を抑制することが可能となった。3)アナターゼ型酸化チタン(a-TiO2)を酸素雰囲気下で加熱し、(4x1)表面超構造を作製した。そのTRHEPD測定を行うことに成功した。またデータ解析では、データ駆動科学的手法の導入により、これまで手計算で行われていたフィッティング解析を、汎用のPC上で高速に精度良く行えるように整備した。
3: やや遅れている
研究代表者の高エネルギー加速器研究機構から大阪大学への異動に伴い、超高真空内試料表面作製装置の設置場所を変更した。設置場所を変えることよって、大阪大学に設置されたスピン分解ARPES測定装置と組み合わせた研究を行うことが可能となるが、それに伴い超高真空内試料表面作製装置の大幅な設計変更が必要となった。特に水冷による冷却システムの大幅な設計変更が必要となった。当初は2019年度内に装置設計を終わらせ稼働させる予定であったが、設計変更に伴い2020年度に食い込むことになったため。
第一に、超高真空内試料表面作成装置の完成に向けての再設計を早急に進める。設計が完了し装置が納品され次第、真空試験や冷却試験を行う。同時に半導体表面のARPES測定を進め、表面超構造に起因した電子状態の特定を行う。TRHEPDの準備槽は加熱機構を工夫することで、より安定的に試料表面を作製可能とする装置へと改良する。また、昨年度のTRHEPD測定で得られた実験結果にはデータのばらつきがみられた。これは試料の帯電やマウントの角度のズレに起因したものだと考えられるが、必要に応じて測定精度を高めた追実験を行う。超構造決定には詳細な原子配置のフィッティング解析が必要である。効率的に構造を決定するため、データ駆動科学的手法(グリッド解析やNelder-Mead法)を取り入れた高速・高精度な解析を進めつつ、実験結果を再現する構造モデルを決定する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Acta Physica Polonica A
巻: 137 ページ: 188~192
10.12693/APhysPolA.137.188
Physical Review B
巻: 101 ページ: 085121
10.1103/PhysRevB.101.085121