研究課題/領域番号 |
19H01830
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
湯川 龍 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40759479)
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研究分担者 |
望月 出海 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (30579058)
大坪 嘉之 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (70735589)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 全反射高速陽電子線回折 / 表面超構造 / 角度分解光電子分光 / 表面電子状態 |
研究実績の概要 |
本年度は超高真空内試料表面作製装置の再設計を行った。本装置導入後の立ち上げを行い、超高真空下での冷却試験を実施し、設計通り冷却できることを確認した。KEK-低速陽電子実験施設では試料表面作製装置を整備し、アナターゼ型酸化チタン(a-TiO2)表面の(4x1)表面超構造のTRHEPD再測定と、データ駆動科学的手法を取り入れた構造解析を行った。また、装置整備されたことで構造未解決であるa-TiO2(101)表面とa-TiO2(100)表面についても、必要な全てではないものの実験データを取得した。さらに表面近傍の電子構造に起因した特異な発光現象がみられる酸化亜鉛(ZnO)の時間分解発光スペクトルを解析した結果、表面とバルク間で発光過程が異なること示唆する結果を得た。 具体的には次の研究を実施した。 1)超高真空内試料表面作成装置の再設計を行い、納品された装置の動作確認を行った。想定していた超高真空の到達と試料マウント部の7 K以下までの冷却を確認した。 2)TiO2(4x1)表面超構造のTRHEPD再測定と、データ駆動科学的手法を取り入れた構造解析を行った。具体的には、最近開発された汎用構造解析ソフト「2DMAT」(https://www.pasums.issp.u-tokyo.ac.jp/2dmat/)を用いてフィッティング解析を進め、結果、この表面に提案されていた様々な構造モデルのうち、「Ad-molecularモデル」と呼ばれる原子配置が実験結果を良く説明できることを突き止めた。 3)酸化亜鉛の表面近傍からの発光現象を明らかにするため、時間分解発光スペクトルの詳細な解析を行った。その結果、電子と格子の相互作用に起因した再結合過程が表面とバルク間で異なることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TRHEPDに関して,当該年度に計画していたデータ取得とデータ駆動科学定手法を取り入れた構造解析は大きく進展し、(4x1)表面超構造モデルをほぼ特定できた。一方,実験データにばらつきが見られており精度向上のため追実験が必要だが解析は概ね順調と言える。加えて、構造未解決である異なる面方位のチタニア試料の測定にも成功した。 酸化亜鉛(ZnO)の未解決であった時間分解発光スペクトル形状を表面電子構造に起因した電子格子相互作用モデルを取り入れることで説明することに成功したため、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ARPESでは引き続き半導体表面に形成される電子状態の解明を行う。表面終端を変化させた際に生じる電子状態の変化を放射光ARPESで観測する。 TRHEPDは、追実験を行って測定精度を向上させa-TiO2(4x1)表面超構造の原子配置を高精度に決定する。これについては実験の再現性が得られた段階で成果として公表したい。構造未解決である異なる面方位のチタニア表面の構造解析も進める。また、汎用解析ソフト「2DMAT」を用いて、DFT計算を取り入れた「原子配置と電子状態」の包括的な解析手法構築も検討を開始する。 酸化亜鉛では表面近傍の電子状態に起因した発光を示唆する結果を得ている。これは研究代表者が過去に光電子分光法を用いて得たZnO表面ではバルクと異なる電子状態や構造が存在するという結果を裏付けるものである。さらなる解析と理論的な裏付けを行い、成果として公表したい。 さらに、新たに作製した超高真空内試料表面作製装置を用いて半導体表面に形成される表面超構造や電子状態の温度依存性を測定する。
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