研究課題/領域番号 |
19H01832
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井原 慶彦 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80598491)
|
研究分担者 |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (10456353)
松井 一樹 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (20826226)
吉田 紘行 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30566758)
福岡 脩平 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80746561)
小濱 芳允 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90447524)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 強磁場物性 / パルス強磁場NMR測定 / 小型パルス磁場装置 / 量子スピン系 / 重い電子系 |
研究実績の概要 |
研究初年度となる2019年度は、本研究計画の主要装置となる小型パルス磁場発生装置の電源のエネルギーをを既存の10kJから30kJへと拡充し、更新した電源を用いてこれまでのところ20テスラ超までの磁場発生に成功した。これは、小規模の研究室における発生磁場としては最強レベルであり、ここまでの強磁場をコンパクトな磁場発生装置で勘弁に発生できることを実証できたことはすでに非常に意義がある。また、マグネットの強度を改善することで予定していた30テスラを超える磁場発生が可能であることが分かった。実際のマグネット改造は2年度への課題とした。 測定系では、まず超音波測定装置を立ち上げ、重い電子系物質において2 K以下までの超音波測定を可能にした。今回立ち上げた装置を用いて、量子振動の観測に成功し、実際の物性研究を行うに十分な測定精度を持つことが確認できた。特に、今回は高速オシロスコープを取り入れたデジタル分光方式を採用し、新しい測定原理に基づく超音波測定を実施できるようになったことは意義が深い。この方式は、パルス磁場中測定だけでなく、定常磁場中にも応用でき、測定難易度を下げることが期待される。 次に、核磁気共鳴分光装置に関しては、周波数の高速変調技術を確立し、5ミリ秒という短いパルス磁場発生時間中に非常に広帯域の周波数スペクトルの観測に成功した。この技術を用いて、20テスラまでのスペクトル測定はもとより、東京大学物性研究所における共同利用実験では53テスラまでのNMRスペクトル測定に成功し、その実用性が実証済みである。 最後に、3つ目のプローブとなる熱測定は、東京大学物性研究所においてすでに稼働しているパルス磁場中熱測定システムを用いた実験を行い、測定技術の移植を行っている。2019年度は測定に必要な装置群およびプローブの準備を行い、2020年度の立ち上げに備えた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、主に強磁場物性解明のための手段となる3つの測定手法の立ち上げ、改良に主眼を置いた研究を行う計画となっていた。実際に、代表者らの研究・開発によりすでに超音波測定装置の立ち上げは終了しており、核磁気共鳴分光装置は既存のものより格段に測定効率を向上することに成功した。3つ目のプローブとなる熱測定についても測定技術習得、および装置群の準備は整っており、最終的な立ち上げを残すのみとなっている。 また、発生磁場強度も一般的な超伝導電磁石を用いた限界磁場である15テスラ程度をはるかに上回る20テスラ超までの発生に成功しており、今後マグネットの強度を改良することで予定していた30テスラを上回る磁場の発生が可能であることも確認できた。これらの装置開発に加えて、Cr系カゴメ反強磁性体を対象としたパルス強磁場NMR測定を行い、NMR測定を行った磁場としては国内最高となる53テスラまでの測定に成功している。 これらの成果から本研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度以降では、まず磁場強度をさらに高めるためマグネット強度を見直す開発を行う。これにより、30テスラを超える磁場を発生し、さらに強磁場領域を開拓していく。また、初年度に整備した小型パルス磁場発生装置を用いた本格的な物性測定を開始する。NMR測定については、初年度において開発した高速周波数変調を可能にするNMR分光装置を用いて、NMRスペクトル測定を高い磁場領域まで行う。具体的な対象物質としてはこれまでにも測定を行ってきたカゴメ反強磁性体、また磁場中で誘電異常を伴う磁気異常が観測されているマルチフェロイック系の測定に取り組む。特に、マルチフェロイック系では低磁場の予備実験から高精度なスペクトル測定を実現することで興味の対象となっている磁気構造を特定できることが明らかになっているため、本測定装置の特徴である高精度測定を活かした測定を行う。また、本装置のもう一つの特徴である緩和率測定も実現する測定装置開発をさらに行う。 超音波測定については、特に重い電子系物質に焦点を当て、これらの物質群にみられる磁場誘起量子相転移の観測に挑戦する。超音波異常がみられる試料に関してNMR測定も行うことで、秩序状態を特徴づける秩序パラメータの対称性に関する情報を引き出す。 熱測定については、これまでに準備してきた装置系をくみ上げて測定システムを完成させると共に重い電子系、および量子スピン系を対象とした磁場誘起相転移の観測に取り組む。まずはすでにNMR、超音波測定で異常が観測されている物質を対象とし、その後新物質を対象とした広範囲な物質群に対する測定を行うことで、磁場誘起相を探索していく。
|