研究課題/領域番号 |
19H01833
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 孝彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20241565)
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研究分担者 |
松浦 直人 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 副主任研究員 (30376652)
中 惇 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (60708527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 分子性物質 / 量子スピン液体 / フォノン |
研究実績の概要 |
本研究では,BEDT-TTF分子系分子性導体が特徴的に有する階層的な分子内振動‐分子格子振動(フォノン)ダイナミクスと強相関パイ電子系電荷/スピン自由度の結合が生み出す新しい量子液体状態,すなわち,フォノンがアシスト・増強する分極自由度を伴った電子誘電性・ダイポール液体や電荷ガラス,スピン液体の開拓と解明を目的とする.量子液体状態の起源としてこれまで議論されてきた幾何学的フラストレーションや相互作用の競合に加えて,これをアシスト,増強する階層的フォノン-パイ電子結合の重要性を明確にし,量子液体発現への新ルートを提案する.このために,赤外電子励起・分子振動分光,低周波数誘電率測定及びBEDT-TTF系単結晶育成・評価を実施する.さらに,研究分担者と共同して有機微小結晶による挑戦的な非弾性中性子散乱実験と多面的理論研究を,国際共同研究により実施する. 2019年度は,分子フォノンと電荷状態の低エネルギー励起を赤外分光で観測するための,中赤外域顕微分光装置の導入と低温実験対応のための周辺環境整備を行った.大型放射光施設SPring-8の赤外ビームラインにおける顕微遠赤外実験と合わせて遠赤外-中赤外光域での微小単結晶試料における分光測定が可能となった. また,これまで未踏であった微小有機単結晶における非弾性中性子散乱実験をフランスグルノーブルILLの熱中性子炉において行い,分子格子フォノンの観測に成功した.この成果は,これまでの実験結果と合わせて論文化し,PRL誌に掲載となった.本成果は,ダイマーモット絶縁体におけるスピンと電荷の自由度が結合することで誘起される強誘電性を伴う絶縁体化や反強磁性秩序化に対して分子格子フォノンが結合することで,フォノン励起に特異なオーバーダンプが生じることを明確に示したものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた顕微赤外分光測定系の導入が順調に進み,低温測定も含めて研究計画通りの実験を実施できる環境が整った. また,困難が予想されていた非弾性中性子散乱実験は,フランスILL熱中性子炉を使用することで実行可能であることが明らかになり,今後の進展が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に構築した顕微赤外分光測定系による分子フォノン分光と非弾性中性子散乱実験による格子フォノン測定,低周波数誘電率・ノイズ測定による電荷スローダイナミクス測定を統合した複合自由度の結合により生じる分極性量子液体相の発現を明らかにする. 特に,研究分担者(中)との共同による理論モデル提案が,物理概念の創出に対して重要である. 2020年4月現在,新型コロナウイルス感染症の拡大によりフランスでの中性子散乱実験,および国内でのSPring-8放射光赤外実験のいずれもが2020年度前半の予定がキャンセルとなり,後半以降に延期となっている.中性子散乱実験については代替施設が無いため,これまでの取得データのより深い検討,SPring-8代替としては構築した実験室光源測定系での中赤外光域実験についてのみ実施し,両施設の利用再開に備えた準備を十分に行っておく予定である.
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