研究課題/領域番号 |
19H01836
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北川 健太郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (90567661)
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研究分担者 |
松林 和幸 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (10451890)
平岡 奈緒香 (太田奈緒香) 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40758827)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子スピン液体 / 擬スピン / キタエフ系 / ランタノイド / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
スピンと軌道が強く結合した系のトポロジカル物性として、ハニカム構造のイリジウム5d5、ランタノイド4f1,13化合物等に着目して強相関物性と量子磁性相を開拓している。これらの立方対称様結晶場では擬スピン1/2の量子スピンが実現し、ボンド依存の異方的なスピン間相互作用と今までにない量子磁性相を実現することが出来る。ハニカム構造化合物における厳密解キタエフ量子スピン液体は、まさにその体現であり、マヨラナ物理・エニオン統計やトポロジカル量子コンピュータへの応用可能性などから非常に注目されている。我々は、現実には未だ実現されていないこの新量子液体の探索を主目的に磁性未知物質の合成と評価を続けている。 主な成果としては、ここ数年来キタエフ候補物質の新しい舞台として理論的に提案されたランタノイド系の一つ、Pr4+化合物のNa2PrO3の磁性状態を明らかにしたことを挙げる。23Na-NMR測定とその解析結果から、渦糸的磁気構造の非コリニア反強磁性が基底状態と思われ、Na2PrO3が理論予想の相図上で反強磁性キタエフスピン液体に近い磁性状態にあることが確認できた。まだ詳細が知られていない4f1類縁ハニカム構造物質はより液体に近い場所に位置する可能性がある。Na2PrO3の研究は今後の真なるキタエフスピン液体の実現を目指すための指針を与えたと言える。現在、Ce3+ハロゲン化合物など次なる候補物質の良質な単結晶の合成に成功したところであり、基礎物性評価を開始してキタエフ系のマヨラナ物性(素励起)の評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Na2PrO3を始めとする4f1ハニカム構造物質は、理論計算ではキタエフ物性の可能性が提唱されていたものの、そこに着目した実験的報告は存在しなかった。結晶構造に未決定の部分があり未だ論文投稿に至っていはいないが、Na2PrO3が相図上では正に反強磁性キタエフスピン液体の近くに位置することを支持する実験結果を国際学会招待講演等で発表済みである。うち一件は強相関電子分野で最大級の学会である。近年盛んになっているキタエフ系研究の中で十分に注目すべき結果であると自己評価する。次項で記すように、Na2PrO3の強磁場下でのふるまいや関連物質のCeハニカム化合物でも興味深い振る舞いが観測されたため、次の成果に繋がる流れも用意できた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、ランタノイドハニカム化合物を主なターゲットして擬スピン1/2の興味深い量子磁性を明らかにしていく。短期的には、Na2PrO3の強磁場下物性を追求することにより、遍歴マヨラナフェルミオンに関連した現象を掴むことを目標とする。2種類のマヨラナ粒子のうち、遍歴マヨラナは純粋なキタエフ量子スピン液体でなくても比較的高温や強磁場下で兆候が得られると期待できる。物性研究所での超強磁場パルス磁化による予備実験では、実際にメタ磁性が観測された。これに関してより知見を深め、マヨラナ物理との関連を調べる。 他方、今まで全く着目されてこなかったCeハニカム化合物の合成に成功し、磁性の初期評価を進めている。極低温まで秩序しないことなどが判明しつつあり、キタエフ量子スピン液体候補としてより詳細を明らかにする予定である。まずはこれまでα-RuCl3でマヨラナ物理として示されてきたような、エントロピーの分数化や、半整数量子熱ホール効果の観測を試みる。その後に、可能性があれば不純物誘起局在マヨラナ励起のNQR実験による立証を目指す。 上記に加えて、擬スピン1/2ランタノイドハニカム化合物の物質開発を強力に進め、磁気相図を詳らかにする。特に、YbCl3などは既存のS=1/2系とは大きく異る磁性を持つことから、圧力をパラメータとした磁性相研究により擬スピン1/2特有の量子相転移を開拓する。手法としてはNMRの他に、新規開発した低バックグラウンド高圧磁化測定技術を用いる。
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