研究課題
スピンと軌道角運動量が強く結合した「スピン軌道強結合電子」が電子輸送現象に重要な役割を果たしていると考えられる幾つかの層状化合物において基礎物性測定を進めた。Eu3Bi2S4F4の多結晶試料では、磁気抵抗が磁場や温度に依存して符号反転する異常な磁気抵抗を見出した。その特徴を磁場-温度相図に整理することにより、Euイオン磁性が磁気抵抗を支配している証拠を得た。EuFBiS2では共同研究を進め、空間分解ARPES実験により、単結晶内のキャリアドープ不均一性の観測に成功した。金属領域と非金属領域は、局所的結晶構造の相違と関わっている可能性が指摘された。さらに、type-II Weyl半金属の候補物質であるWTe2およびMoTe2についても、結晶の純良化と物性測定を進めた。残留抵抗比が1,300以上に達する世界最高レベルの単結晶の育成に成功し、これを用いた共同研究を進めた。光学伝導度測定では、Weyl点を持つバンドが関与するものと考えられるDrudeピークの異常な温度依存性が観測された。MoTe2では、ホールポケット由来の量子振動の観測に初めて成功した。このポケットはWeyl電子が関与する重要なフェルミ面でありながら、これまで観測されていなかった。圧力中では、ホールポケットの大きさが圧力に対してきわめて敏感に変化する異常を見出した。カイラル化合物IrSn4では、右手系、左手系のそれぞれについて単相の単結晶粒を作り分けることに成功した。さらに、磁場のべき依存性を示す特異な磁気抵抗を発見した。
2: おおむね順調に進展している
単結晶を用いた高精度磁気抵抗測定のために、高い角度分解能を持つ磁場中角度回転システムを構築する必要があった。新型コロナウイルス感染拡大のために、この装置整備は当初の計画より遅れることとなった。しかし、その後の装置改良は順調に進み、磁場中の試料回転を行いながら磁気抵抗等の測定を行うことが可能となった。Eu3Bi2S4F4における成果はその一部であり、上記の「研究実績の概要」に示したとおりである。スピン軌道強結合電子の特徴の発現が期待される幾つかの化合物についても、フラックス法を用いた純良単結晶育成とその基礎物性測定が順調に進み、上述の幾つかの特異な振る舞いを見出すことができた。本研究により育成された純良単結晶試料を用いて、国内外における多くの物性測定グループとの多方面からの共同研究も順調に進んだ。
本年度に得られた成果と課題を考慮しつつ、さらに発展させる方向で、スピン軌道強結合電子に起因する特異物性の発現が期待される幾つかの化合物について、新規電子状態の探索と究明を進める。磁場中角度回転システムについては、コンピュータ制御による測定の効率化とさらに高い角度分解能を目指し改良を行う。カイラル結晶構造を持つ化合物については、「研究実績の概要」で述べたIrSn4以外にも、純良な単結晶育成が可能と推測される候補物質がある。これらの化合物に対して、純良単結晶育成および特異な電子輸送効果の探索を進める。さらに、育成された単結晶試料を用いて、国内外の各種物性測定グループとの多方面からの共同研究を推進する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 2件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (39件) (うち国際学会 14件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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