研究課題
電子ドープ型T'銅酸化物La2-xCexCuO4のオーバードープ領域の薄膜をパルスレーザー堆積法で作製した。作製後の還元アニール条件を調整することで、最適に還元されたx=0.13と0.17の薄膜を準備し、低エネルギーミュオンを用いたμSR測定を行った。その結果、x=0.13、0.17ともに低温でCuスピン相関が発達することを見出した。x=0.17でのCuスピン相関の発達は、最近提案されている強磁性ゆらぎが関係しているかもしれない。電子ドープ型T'銅酸化物Pr1.3-xLa0.7CexCuO4のアンダードープ領域の単結晶に適切な還元を行った試料を用いてホール抵抗の測定を行った。その結果、還元してTc~28Kのバルク超伝導を示すx=0.10ではホール抵抗率が磁場に非線形に振る舞うことを見出した。このことから、超伝導とマルチキャリアに関係があると結論した。KEK-PFのBL-14Aに設置された放射光X線回折装置を用いて、電子ドープ型(Pr,La,Ce)2CuO4の超伝導試料の超精密結晶構造解析を行った。通常のArアニール、プロテクトアニール、ダイナミックアニールの異なる還元によって、(Pr,La,Ce)サイトが少なくとも2サイトに無秩序に分裂する構造が解消されることを見出した。これは、母物質試料の結果と一致する。T*構造銅酸化物La1-x/2Eu1-x/2SrxCuO4の磁性研究をミュオンスピン回転/緩和(μSR)法で行い、本物質の超伝導化に必要な高圧酸素アニール処理によってスピングラス的磁気秩序が広いSr濃度範囲で消失することを明らかにした。T*構造銅酸化物の静的磁気秩序と超伝導の競合関係を示す結果で、これにより酸素5配位構造の研究を行う基盤を整えた。また、La2-xSrxCuO4の超伝導相で、超伝導と共存/競合する二種類の電荷秩序が存在することを高分解能共鳴軟X線散乱で明らかにした。これまでの中性子散乱の結果と合わせ、共存/競合状態が磁気秩序と密接な関わりがあることも判明した。
2: おおむね順調に進展している
T'構造銅酸化物において、Cuスピン相関、マルチキャリアと超伝導の関連についての結果を得たことで、我々が提唱する電子構造モデルが実現している可能性が高くなった点は重要な進展である。また、精密結晶構造解析からレアアースサイトの分裂が還元によってなくなることを明らかにした点も重要な知見である。さらに、T*構造に関して磁性と超伝導が競合することが明らかになったことも大きな発見である。これらのことから、今年度は概ね期待通りの進展と判断した。
T'型Pr1.3-xLa0.7CexCuO4のホール抵抗測定を拡張し、様々な電子ドープ試料と還元試料において測定を継続し、マルチキャリアと超伝導の関連を確定させる。また、X線吸収分光の測定から還元による電子ドープ量を定量的に評価し、還元による電子状態の変化についての知見を得る。T'型Nd2-xCexCuO4のx=0.15の単結晶試料に様々な還元を行い、輸送特定とミュオンスピン緩和の測定から還元による電子状態の変化を明らかにする。また、精密結晶構造解析から還元が構造に与える影響を明らかにする。T*型銅酸化物に様々な酸化還元アニールを行い、ミュオンスピン緩和とX線吸収分光の測定から、5配位銅酸化物の電子状態の特徴を洗い出す。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 12件、 招待講演 9件) 備考 (3件) 学会・シンポジウム開催 (2件)
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