研究課題
T'型銅酸化物Pr1.3-xLa0.7CexCuO4の単結晶を用いてホール抵抗率の測定を行った。その結果、電子を僅かにドープしたx=0.05ではホール抵抗率は磁場に対して線形に振る舞うことを見出した。この試料では、超伝導の体積分率が小さく、反強磁性と共存している可能性がある。したがって、電子ポケットが生成して電子のシングルキャリアが支配的になっている可能性があると結論した。無限層銅酸化物Ca0.85Sr0.15CuO2の薄膜をパルスレーザー堆積法で作製し、様々な酸化還元条件でアニールを行った。その結果、還元によって抵抗が増大する一方、参加によって抵抗が減少することがわかった。これは、薄膜の作製時に生成するCuO2面内酸素欠損が酸素アニールで補填されたためと考えられる。前年度に引き続き、放射光X線回折実験を様々なCeドープ量、還元条件のPr1.3-xLa0.7CexCuO4に対して行った。また、還元によって現れる析出相の空間構造について、散漫散乱の3次元空間分布の測定を行った結果、還元の条件によってその構造が異なっていることを見出した。尚、オークリッジ国立研究所にて計画していた中性子構造解析は新型コロナの蔓延による渡航禁止により、延期を余儀なくされた。T*型銅酸化物LaEuSeCuOの磁気相関に対する不純物置換効果をμSR法で調べ、広いホール濃度領域でフェルミ液体的基底状態が実現している徴候を得た。また、フッ素置換によりホール濃度が希薄な試料を作製し、La2-xSrxCuO4に比べて低ドープ域まで超伝導相が存在することを明らかにできた。本研究で注目する、配位数が電子状態を決める要因であることを示唆する実験結果である。
2: おおむね順調に進展している
T'構造銅酸化物において、マルチキャリアと超伝導の密接な関連がさらに高まった結果を得たことで、我々が提唱する電子構造モデルの妥当性が高くなった点は重要な進展である。また、還元によって現れる析出相がアニール条件で変わることを発見できたことも重要な知見である。T'型と同じ平面4配位構造を有する無限層銅酸化物の薄膜の作製に成功したことで、今後のアニールによる電子状態の変化の研究が加速すると思われる。T*構造に関して、低ホール濃度領域まで超伝導領域が広がっていることが明らかになった点は特筆に値する。これらのことから、今年度は概ね期待通りの進展と判断した。
T'型Pr1.3-xLa0.7CexCuO4においてミュオンスピン緩和測定を行い、マルチキャリア、シングルキャリアとCuスピン相関の発達の関連を明らかにする。また、X線吸収分光の測定から還元による電子ドープ量を定量的に評価し、還元による電子状態の変化についての知見を得る。無限層銅酸化物の薄膜に関して、La置換によって電子をドープした薄膜の作製も行い、酸化還元ニールから電子状態の変化について調べる。また、精密結晶構造解析からアニールによる構造の変化についても調べる。T*型銅酸化物に様々な酸化還元アニールを行い、ミュオンスピン緩和とX線吸収分光の測定から、5配位銅酸化物の電子状態の特徴を洗い出す。
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