研究実績の概要 |
本研究は,走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて,トポロジカル超伝導体における渦糸芯で期待されるマヨラナ準粒子の検出と制御を目的としたものである.本年度は,トポロジカル超伝導体における渦糸芯のマヨラナ準粒子がスピン偏極した状態であるという理論予測に着目し,マヨラナ準粒子判別法の一つとしてそのスピン偏極性を捉えるための超高スピン分解能走査トンネル分光技術の開拓に従事した.本研究では,超伝導体中の磁性不純物近傍で形成されるスピン状態が100%偏極したYu-Shiba-Rusinov(YSR)状態と呼ばれる束縛状態に着眼し,これを探針先端の状態として用いた走査トンネル分光測定技術の開発を行った.具体的には,先鋭化した超伝導体(Nb)探針の先端に,原子操作技術を利用して単一鉄原子を付着させ,探針先端にYSR状態を形成させた.実際,Cu(111)表面上のFe原子で作成したYSR探針のスピン及び空間分解能を評価したところ,原子レベルの空間分解能でこれまでにないスピン分解性能が確認された.今後このYSR探針を用いることで,渦糸芯のマヨラナ準粒子のスピン偏極状態が可視化されることが期待できる.さらに,YSR探針のYSR状態のピーク幅は数百ナノeVと極めて小さいため,マヨラナゼロモードの真の半値幅も見積もれる.これによって,マヨラナ準粒子の寿命も見積もれることが期待される.ここで確立した分光技術は,マヨラナ準粒子検出法の確立のみならず実際の量子計算における重要な知見をもたらすと期待される.
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