研究実績の概要 |
チタン酸ストロンチウム (SrTiO3) では、極めて希薄な電子ドープによって金属状態が生成し、また極低温では、超伝導 (臨界温度 Tc ~ 300 mK) が現れる。その一方、電子ドープを施さない絶縁体では、酸素同位体 (18O) や、Srを同価数の異種イオンであるCaやBa等による置換を施すと、強誘電状態が現れる。本研究では、極めて希薄な電子ドーピング領域で現れる超伝導と強誘電との関係解明を目指している。 1. 元素置換により電子ドープを施したチタン酸ストロンチウム単結晶、(a) (Sr,La)TiO3, (b) Sr(Ti,Nb)O3 の作製と超伝導ドームの確立 浮遊帯域溶融 (floating zone; FZ) 法により、Sr をLaで、また、Ti をNb で 置換し電子ドーピングを施した単結晶 [(a) Sr1-xLaxTiO3, (b) SrTi1-xNbxO3] を作製し、これらの単結晶について、常伝導-超伝導転移等の輸送現象を評価した。Tc を、キャリア濃度 (n) の関数として表すと、(a), (b)どちらの場合も、Tc が、ある n において極大を示す、いわゆる超伝導ドームが形成されることが明らかになった。また、TiをNbで置換している (b) では、(a) に比べ、電気伝導を担うTi - O ネットワークにより大きな乱れが導入されるため、輸送現象には、より大きな悪影響が現れると予想されたが、移動度やTc は、(a) よりもむしろ高く、酸素同位体置換を行わなくても、Tc > 500 mK に達する。 2. 強誘電体 (Sr,Ca)TiO3 へのキャリアドープ 強誘電性を示す (Sr,Ca)TiO3 に対し、TiをNbで置換して電子ドープを施した、(Sr,Ca)Ti1-xNbxO3 単結晶では、上記 (b) に比べ、Tc が高くなることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要 1. で示すように、元素置換により電子ドープを施したチタン酸ストロンチウム単結晶 [(a) (Sr,La)TiO3, (b) Sr(Ti,Nb)O3] の超伝導ドームを確立したが、今後の本研究の展開にとって礎となる結果で、また、チタン酸ストロンチウムの超伝導に関する研究においても、重要な知見になると考えられる。また、Ti - O ネットワークに直接的な乱れが導入されている (b) の方が、(a) よりもキャリアの移動度が高くなる等、良好な輸送現象を示すことは、銅系酸化物高温超伝導体の研究で得られた経験則と異なり、キャリア散乱機構や輸送現象に与える強誘電性の影響が、(a), (b) で異なることを示唆している。本研究の展開に合わせて今後取り組むべき課題である。 昨年度は、研究実績の概要 2. に示すように、Ca置換量によって強誘電性の強さを、また、Nb置換量によってキャリアドープ量を、それぞれ独立に制御できる Sr1-yCayTi1-xNbxO3 単結晶の作製とその評価に着手できた。元素置換量を正確に制御できる浮遊溶融法の優位性を活かし、これによって、酸素同位体置換よりも安価に、強誘電性の制御を行えるようになった。本研究の核心である、超伝導と強誘電性の関係解明を目指す準備が整ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、チタン酸ストロンチウムの超伝導では、“強誘電性の増強とともに Tc が上昇する”、ということが、経験的にほぼ明らかとなった。強誘電性の強さとキャリアドープ量、それぞれを独立に制御できる Sr1-yCayTi1-xNbxO3 等の良質大型単結晶作製を基軸として、超伝導と強誘電性の関係解明を目指す。 また、チタン酸ストロンチウムの超伝導に与える磁性/非磁性の影響を明らかにするため、La以外の希土類金属元素をドーパントとした Sr1-xRExTiO3 (RE = Nd, Eu…) [Nd3+ (J = 9/2), Eu3+ (J = 0), …] 単結晶作製に着手し、超伝導転移するのか探索する。 チタン酸ストロンチウムの超伝導に関する研究では、これまで、元素置換には不向きであるベルヌーイ法による単結晶を用いて行われてきたため、”SrをCaやBa等で置換して誘電性を制御する”、”SrをLa等で置換して電子ドープを施す”、ことは困難で、また、電子ドープは、酸素欠損を導入することによって行われてきた。このため、上記のような研究テーマは、これまで取り上げられず未開拓である。本研究では、元素置換量を正確に制御できる浮遊帯域溶融法による単結晶育成を最大限に活用し、これまで見えていなかった未開拓の領域に踏み込んで行きたい。
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